火星縦断

●ジェフリー・A・ランディス「火星縦断」読了。説明するまでもなくそのまんま、事故により帰還船を失った火星探査のクルーたちが、動くかどうかも知れない昔の帰還船を頼って火星縦断する話、である。


解説の山岸真筒井康隆の文章を引いて、こういう「アイデアとテーマとタイトルが同一の作品」を書けるってのはよほど腕力に自身のある作家だ…と述べてるけれど、ねえ。これ逆も言えるよねえ。アマチュアっぽい人ほどそういうワンアイデア作品になりがちだったりするよねえ。またこの作者が現役の火星探査計画の科学者なんだよねえ…とまあ、ちょっとだけ不安になりながら読み出したのだけれど、これはワシが大失礼でした。確かに豪腕であり繊細であり、何より純粋に面白え。伊達にヒューゴー・ネビュラ・ローカスを経験した作家じゃねえやね。


…いや、科学者作家の火星モノってことで、フォワードの「火星の虹」がチラついたりしたんですよ事前に。ワシ、あの単純なキャラ造形にちょっと辟易したんだよなあ。中川家言うところの「マンガやわマンガ」みたいな。フォワードも「竜の卵」とかはおもろかったんだけどなあ、とまあこれは蛇足。


閑話休題。お話はこのドンとしたメインストーリーに、キャラ各々の生い立ち等の描写が適宜差し込まれつつ進行する。それらの多くは本編のドラマに大きく関わってくるものばかりではないが、彼らの行動や事件の展開に十二分な陰影を与える要因となっている…という、とっても正攻法な構成。


骨太なプロットに精密なディテイル、この両輪でゴンゴンと驀進する物語にすっかり参りました。構造が単純なだけに牽引力が強くて、ここまで先が気になる気になると思いつつ本を読んだのもそこそこ久しぶりだったような気もする。各キャラの印象が事故により、縦断行により、また過去の経歴の深化によりずいずいと変化してゆくのが見事なんだよなあ。


そして、火星冒険譚という語のイメージからは程遠い血も涙もない火星環境の縦断行に割と絶望したりする。書評等では山岳遭難ノンフィクションに喩えられたりしてるそうだが、ワシがまず思い出したのは「プラネテス」の月面彷徨エピソード、それもどっちかっつーとアニメ版の方でしたな。アレもシビアなお話でしたっけねー…ってことで、そんなのが好みの方には堪らんのではないか。ワシは堪りませんでした。てことで、著者の他の著作も早速翻訳してください。ほれほれ早く。ほれ。


●えー、ついでのさかさま文字…って逆さじゃないんだけどさ。つーかもう、逆さがどうのこうのっちう方が少ないような気がしてきたが、タグ打ちかえるのめんどくさいんで、いいや。ここではそういうもんですよ、で済ませとこ。


てことで火星/MARS。ヤッツケですが色つけて誤魔化した。よし。