夢の話は誰も聞かない

●夢を見る。マンガの夢である。

舞台はどこか外国っぽい風景のひなびた田舎町、時代も判然としないが戦前戦後くらいだろうか。この町には「庇護者」という人ならざる者が人に混じって存在している。彼らは外見上あまり人と変わらない女性の姿をしているが、何となく超越的な雰囲気とぼんやりとしたかすかな光を有している。彼らの役目は特定の人間(その選択基準はよく判らない)を今のこの世界から別の上部世界へと導くことであり、まあ要するに天使などと似たような感じである。

「庇護者」の中にはあまり評判の良くない者もいる。例えば長い黒髪で地味な服装、表情に乏しいある「庇護者」は、積極的に導きを行わずだらだらと存在を続けており、劇中何度も「不良庇護者」とか「あのゲスなヤツ」などと呼ばれている。対照的な存在の「庇護者」が物語上に配置されており、彼女は明るく朗らかで魅力的なキャラクタとして描かれている。物語上他にも何人かこの「庇護者」が登場し、彼らとレギュラーキャラの人間との係わり合いが主軸となって話が展開する。

お話が終盤に至るにつれ、何となく違和感を覚える描写がチラホラと見えてくる。そして最終話、実はこの世界、まあこのマンガは「時系列が逆」であることが判明する。つまり本当の物語は今まで読んできた順番ではなく、最終ページからページ単位で遡って読んでゆくという順番が正しいのである。それによって台詞で指し示す人物や事象が異なったり、物事の様相が逆になったりで、ストーリィは全く別のものに変化する。正しい順番で読むと黒髪の地味な「庇護者」は評判の悪い者ではなく、物語早々に導きを行うもそのことが何らかのトラブルとなり長く悩む、という不器用で誠実な人物である。そして朗らかに見えた「庇護者」こそが、劇中で何度も「ゲスなヤツ」と言われている者であると判る。そういうシカケの作品である。

自分はこのマンガの作者であり、冊子として出版されて評判も得、その年の何とか言う賞なども貰っている。しかし自分はこのことに対して後ろ暗く思っている。それは自分がかつて時間の流れがこの世界とは逆の世界に居た人間で、このマンガは正しい順番でその世界で連載されていた作品そのものであり、そして自分はそれをそのまま丸写しして(そして順番を逆にして)この世界で発表しただけだからである。

…とまあ、まとめるとそういう「構造」の夢である。

目が覚めてから改めて考えると、逆時間の世界って何だとか、その世界ではページ単位でマンガ連載してたのかとか、いろいろ夢らしいヘンテコなところもある。けどもうちょっと考えてみると、これひょっとしてその「逆時間世界での元ネタ作品」も、こっちがわの順時間世界から剽窃して持ってったものじゃないかという可能性もあるなと思ったりする。そうなれば「タイムループによりオリジンの存在しないモノ」という定番ネタの一変奏曲になってちょっと面白い。マンガの中で言うところの「上部世界」ってのが実はこの現実世界でした、ってのはちょっとヤリスギだろうか。

あと副情報ながらこの夢はえろ夢としての側面もあり、夢の中マンガに出てくるサブキャラ「庇護者」の中にはやたらとえろいカッコしたヤツとか居たりして(そしてその辺りに限ってはマンガじゃなくて実世界っぽいシーンだったりして)、うんまあ、起床してからもやもやいろいろ感情の渦巻く状態であったことである。うん、以上。