マットの魔法の腕輪

●書類を取りに前の前の職場へ。2ヶ月ぶりであるが、しかしこの職場にはイヤな思い出がほとんど無い(お給金は安かったですけど)。4月の異動で面子は少し変わってるが、ワタシが居た時に少しも変わりなく気遣ってくれて少々泣ける。うーん、今の身の上を考えるともうちょっと泣ける。


●てなワケで久々に電車内読書の機会、もうちょっとで読了だった本をやっと片付ける。ニーナ・キリキ・ホフマン「マットの魔法の腕輪」読了。…微妙に語呂悪い邦題だなあ。原題(A RED HEART OF MEMORIES)の方が好きかも。


アメリカの片田舎を舞台にした当世ファンタジィ。だけどこれ、不可思議を描く事が主眼の話では無い。確かに魔法やら幽霊屋敷やらが重要な話なんだけど、その本質は「抗えない人の性とその赦し」にある。


主人公はマット・ブラック…、「真っ黒け」って感じの名だが、二十歳そこそこの娘さんである。あらゆる人工物と話す力を持つ彼女は、自然の存在から話を聞けるというエドマンド青年に出会う。二人の力はお互いの奥底へと向かう。彼らの旅は、心を失い身を焦がすような過去への旅。魔法の力はその代償…。


や、若い頃に読みたかった、という類の作品ですな。ドライブラシ用の筆みたいな淡々とした描写の積み重ねの先に、秘めたる激情の物語が浮かび上がる。若い頃にシンクロし過ぎちゃうと危なかった、って感じ。女の子視点の話っぽいのは、エドマンドの超越性ですかね。悩み傷つき不安定な存在ながら、半分精霊のような「透明さ」がある。あ、多分ある種の「理想キャラ」なんだろうな。


ワタシはこの作品のあまり良い読者層ではないかもしれんが、それでも楽しめましたな。マットの強さ、それは少々羨ましくもあります。無論、その弱さもですがね。