フラクタル/放浪息子

フラクタル・9話。いろいろあって僧院とロスミレは全面対決の道へと至る。僧院の島本さんは全世界へ向けてロスミレのヘイトスピーチを行い、彼らを追い立てる。彼ら異端の輩どもに死を、魂の休息を。その鍵となる存在がフリュネとネッサ、多分クレインもいくらかは。ロスミレとしてはその「鍵」を渡しちゃうワケにはいかない(という風にディアスさんによって議論が誘導された)ので、しょっがなくみんな集まって総砲撃…という辺りですかね。


ロスミレへの弾圧が彼らの決意を促し、旅立ちの前にみんなで記念写真を撮り、ヴォーカル曲に乗って船は往き、残されたヒロイン(キッカケ役)も自らの意志で出奔し、主役とヒロイン(擾乱役)はそのあとを追う…とまあ、あまり奇を衒わずカッチリとした「ラストステージに向けての盛り上げ回」てな構造ではあるんだけどね。どうもその形式、骨組みに乗っかっててしかるべき「キャラの関係性」と「過ごしてきた経験」が乏しく感じられる。いや、ヒロイン二人に対するクレイさんの感情はまあ判るのだ。そこら辺の描写は割とありましたから。でもやっぱ、ロスミレたちに対しての感情や思い入れがどうもボンヤリしてるので、そんなに歌で盛り上げられてもな、ってねえ。お話としてのカタチだけはちゃんとしましたよ、ってな感覚がぬぐいきれないトコだなあ。


まァそこら辺のワシ個人的な思い入れはどうでもいいですか。ノリとしては陳腐だがそれだけにお話は判りやすくてよろしいし、これから世界の根幹たる謎やらが出てくるだろう状況で、無駄に込み入った構造にする必要もありませんしね。…個人的な印象ついでに、かなり面白そうなデザインと絵面である戦闘飛行船による攻撃描写にあんましフェチ心が感じられなかったのは残念。


放浪息子・9話。よしのさんは男装による登校に踏み切る。案外と周囲はそれに対応し、そしてよしのさんも自然に振舞えるようになってくる。「二鳥くん、デートしよう!」。とまあそんなん見て大概揺らいでいるにとりさんへ、追い撃ち攻撃としての土居さんである。彼の提言はにとりさんをしてちょいと大胆すぎるような方向へ進ませるワケで。…ラストシーン、生徒たちと先生の見ている中、カンッペキな女装姿で校門前に立つにとりさんは、何というか実に良い「次回に続く」の絵だなあ。


前々からの思いやよしのさんの行動に加え、土居さんという外部からの新たな力。それらが段階的に積層してとうとう臨界を―あくまでにとりんらしく、静かに―超えてしまう、そのプロセスが見所ですわな。最も大きな転向点である土居さんに女装を見せる一連のシーンはもうこの作品の丁寧さ/繊細さの真骨頂で、ウチに入る辺りから顔どころか人物の姿さえ見せず、家屋内の止め絵連鎖と会話のみでしばらく進め、そしていきなり女装を見せている絵に繋ぐ。料理番組の「こちらに出来上がったものがございます」みたいな…っちうとギャグっぽいが、いや、これは静かなインパクトですよ。環境音の使い方といい(会話の間に車の通り過ぎる音がアクセントとして入ったり)、相変わらず上手いわェ。


会いたかったきれいなねーちゃん、にとりの知人のユキさんが「オカマ」と知って衝撃を受け(事前に何にも言ってあげないにとりんたちも結構だよな)、帰り道ににとりとよしのの二人をつくづくと見て「お前…何なんだよ」っちう土居さんが可笑しい。そうよな、そらそう思うよな。この事件の直接のキッカケである土居さんが、次回どう動くか。ま、そのままフェイドアウトしてもおかしかないのではあるけれど、ね。