四畳半/さらい屋五葉

四畳半神話大系・最終話。EDより始まりOPで終わる物語。普段と違うパッケージなんだけど、やたらとしつこい「本編はこのあとちゃんとやりますよ!」アピールが何かウザおもろい。…あと、アバンの「二畳紀三畳紀の後の四畳半紀」っちうネタがしょーもなくてちょっと笑ったりした。


てことで、無限の四畳半世界を何とか抜けて現実世界に戻る主人公。たくさんの可能性を垣間見た彼はそこから何を学ぶか。いや学ぶ、ってのはちと違うな。この非日常の牢獄からただ見ることしかできない日常世界、バカやってへこたれて酒呑んで小津さんに辟易する、そんな日常への半ば脅迫的な「渇望」を得るのである。その日常の象徴が猫ラーメン。第1話の騒乱シーンに裸一貫再登場した主人公が、そのドタバタをドタバタと切り抜けた後に明石さんに言う台詞が「猫ラーメン食べませんか」だ。ここに彼の軌跡と約定はその輪を閉じる。…やっと念願の約束を果たしたっちうカッチョ良いシーンなんだけど、何より自分が一番ラーメン喜んでる、ってのがこの人らしくてエエな。


ラストシーン。骨折した「意外と純粋なところのある」小津さんを前に、主人公の人はその表情を妖怪のようにして小津さんにヤな愛を告げる。あの顔つきはちょっかいかけられてる側の主観的印象みたいなもんですかね。そう考えると、ラヴドールの回でワンカットだけ小津さんの顔がフツーだったのは「主人公主観の絵じゃないから」ってことかしらん。他にそういうシーンがあるかどうか判らんですけどねえ。…ま、一人称が私から俺に変わってるのも判りやすい、良いシメだったのではなかろうか。


●総評。京都の大学生がそのしょーもない学生生活を厭うて何度も巻き戻し再出発するが、そのたんびに更なるしょーもない学生生活を送るハメになる…っちう、大学モラトリアム生活を経験した人間にとってはある意味たまらねェお話である。この素材をあの演出、異様なまでの饒舌体とフラットかつ高密度情報量な画面、で料理されたらそらまあ、ビザール極まりなくもなるわなあ。何よりフツーに地上波で最近の湯浅アニメを毎週見られるゼエタクっちゃ無いもんだ、と思うよ。…ケモノヅメカイバも見られなかったからねえ、ワシんとこじゃ。


繰り返し構造の作品ってのは、当然ながらその反復部分の「ダルさ」が問題になってくるものであるけれど、ことこの作品においては毎度々々、よくまあここまでヘンテコでワケの判らんバラエティを持たせられるもんだと感心こそすれ、マンネリに飽くことは無かった。そら全部が全部クソハイテンションだったとは言えんけど、あんなけの多芸を見せられりゃ文句はあらへんよ。…ここでエンドレスの八アニメについて言及できれば更にエエんでしょうが、ワシ見てないのでねえ。残念。


その、繰り返し要素。ありえた可能性・IFの未来ってのは湯浅監督の以前作「マインドゲーム」でもあったモチーフだけど、今回は原作を得てさらにストレートな主題として描かれてますな。なんべんやり直しても、その状況でそうなったのは他ならぬ自分の行動の結果でしかない。テメエの行為に責任を持ち、テメエの未来と共に生きてゆけ、だ。


こういうカオティックな雰囲気の作品にしては案外やさしくて素直な決着の付け方なんだけど、湯浅監督って根っこの所でエンタテイメント気質の人ですからなあ。作品として「考えさせる」だったり「深遠な」だったりな要素もありはするけれど、それ以前にガチで快楽原則がどーんと出てきてないとヤな人、っちうイメージがある。だからこそこの人の作品はオモロいし、新作が出たと聞けば期待してしまうし、そしてあんまし裏切られないワシだ。


当然ながら作画回りに関してはおなかいっぱいの一言に尽きる。既出の通りワシは作品のマッチングとは無縁に作画だけ突出してても「ま、それはそれで」と満足するような、ちょいとイガんだ作画偏愛なところがあるんですが、この作品に関しては内容と表現形式の足並みが調和してるわな、と感じるところであります。この脚本で画面が今主流の絵柄…そうねえ、目の描き方に設定何枚か使うようなタイプの絵柄…ではいかにもチグハグだろうしな。そういう意味で、トータルパッケージングとして非常によくまとまった作品だったと思う。


てことで、んー…ワシとしては今期、一番次回をワクワクして待っていた作品でありました。たまにこういう作品があるからエエよなあ。満足。


さらい屋 五葉・最終話。ヤイチさんの過去が再構築されてゆく。楽しいから、面白いからという原理でしか動かない現在の彼は、多分過去の状況の反動として行動しているのだろう。その思い出したくない過去の「澱」のような、ジンという男。…ヤイチとジンが出会ってから劇的に別れるまでの、真実の発露のさせ方というか現実の皮の剥け方というか、とにかくラストの一言が見事すぎる。「だが、そう云わねェと、お前は…殺されていた」。雪の道を踏みしめて歩むマサさんと、冷たい濠を浮かび下るジン。知らずすれ違い、当然ながら顔をあわせることも無い。うっふ、見事にあざとく決まっちょるわな。


マサさんの所に来ておいて訥々と喋り、「もう帰ェる」っちうマツさんのぶきっちょと、裏表もなくヤイチさんを探しに出かけるマサさんの純朴なヤボさ加減がよろしい。過去の闇を払ったもののその喪失に心折れているヤイチさんの、弱い弱いガキのような背中に手を置くマサさん。ヤボなお人は強いのだ。知己のためならば、いつでもテメエのかっこよさなんざ捨ててやりますわ。…んでも最後、だんごを差し出してるマサさんはちょいとヤボさが減じましたかね?


●総評。アニメでヤる時代劇としては、飛び抜けて地味でストーリー依存度の少ない異色の作品。ヒューマンドラマとしても、恋愛・ヴァイオレンス・アクション要素どれもそんなに濃くはなく、各々にどこか陰を持った登場人物を主人公のマサさんがゆっくりと解題してゆく、ってな趣向の話。薄いと言えばそう言えんこともないが、その代わりに全体の空気感と雰囲気の醸成についてはすごく濃密に、濃厚に作り上げられている。つまりはその雰囲気が合うか否か、っちうところになるんでしょうな。


ワシ個人としては、なかなか楽しく視聴できた。もうちょっとサクサク進んでもバチは当らんのと違うかと思ったりもしたが、週一回この世界にふらりと立寄るように、がっつくことなく賞玩する気分でいるならばそれほど悪くないテンポかもしれん、とも感じてくる。…まその、そういう「テンポがトロい」と感じるってのは放送順が「四畳半」の後だから、ってのもあるかもね。


とにかく色彩と画面の設計が緻密で、ここまでシヴい風情を出せるアニメってのも他にあんまし無かろうし、それだけでも大きな価値のある作品だと思う。原作はマンガですってね? いやあ、結構独特なキャラデザインだけど、上手いことアニメに落とし込んであったもんだわな。てことで、一見さんのワシでも楽しめた作品でした。原作ファンの評価は知らぬけれど、ここまで作りこんであるなら充分だったんと違うかな。


すげえどうでもいいことですが、他の作品でなにかというとカタナ振り回して暴れる役の多かった中井和哉の人が、実に弱っちくも人間臭い髷物キャラやっててなんか面白かったっす。ホンマどうでもいいな。