だれも猫には気づかない

アン・マキャフリー「だれも猫には気づかない」読了。女性SF作家によるおねこさま主演ファンタジィとなると、ル・グウィンの空飛び猫が思い出されますが、実はウソでしてワタシ空飛び猫は読んだことありません。そのうち読もう。うん。


えー、こちらのねこ話は中世ヨーロッパっぽい架空のお国が舞台の物語。若くてイケメンで分別もあってちゃんと分相応に助平でもあるが、七面倒くさい政治的策謀世界にはイマイチ経験が不足している新領主・ジェイマス公。そういう弱点は摂政マンガンが一手に引き受けていたのだが、不幸にも摂政殿はこの世を去ってしまう。されど有能なるマンガンは何の準備もなしに死んだりしねえのであって、救国の奇手をくさぐさ準備していたのであった。そしてその最終秘密兵器こそ、黒猫ニフィ嬢でありまして…という。


別に喋るでもなく二足歩行するでもないが、このニフィさんは要所々々で肝となる大活躍をするんだわな。謎の獣を斃し外交文書を点検する嬢の手腕を見て、いつしかジェイマス公も故マンガンと同じくらいに彼女を信頼してゆくことになる。しかしあくまでおねこさま、ブラックボックス的な「何考えてるかよう判んねえ」ねこ性を失わないまま最後まで通すのは面白い。だって基本的にはただのねこだしねえ。言わば彼女の気まぐれ行動に、周囲が勝手に意味を持たせている…ように見えぬこともない。そこはおねこさまですから。


結局このニフィさんは、この物語のラスボスっぽい存在をも斃してしまう、んですが…何というかその、いかにもねこらしい攻撃というかこれはこれでシャレんならんなあというか、すんげえビミョーな後味のラスボス死亡を見てちょっとだけ(物語的な)同情をしたりしました。あれは一種のギャグ悲劇だな。


短いファンタジィでコンパクトに楽しめたのだけれど、いっこだけ! おねこさまを賞揚するのはエエのですが、そのダシに犬を使って貶めてんのは頂けないな! 犬どんは犬どんでいいじゃないか! 確かにバカチンだけど、それはつまり「ああこいつバカだなあ」と判るほど賢いってことですよ! …ま、犬のお話はちょっとウェットになりがちなきらいはありますけどね。