夢の話は誰も聞かない

●夢を見る。仲間内十数人で集まって何かわいわいやっている、という大雑把な前提。片流れの青い鉄板屋根がその下のフロアまで伸びており、その傾斜した屋根を上ったところは畳敷きの薄暗い部屋で、長方形で狭くて雑然とした様子である。中で2、3人ほどの男が談笑している。この雰囲気はとてもいい、大学時代を思い出すなあと懐かしく思う。それにしてもこの部屋に来るのには先ほどの屋根上りしかルートがないのかしら、と男たちに問うと、「コンベア」があるんだけど今は動いていない、と言われる。窓外を見ると確かに、少し離れた辺りにワイヤと鉄骨で構成された小規模なロープウェイのような構造物が下の方に伸びているのが見える。面白そうなので見に行ってみようと扉を開けて部屋の外に出てみると、増改築を繰り返したような複雑な渡り廊下が曲がりくねりながら伸びている。天井は古びた青緑色の樹脂スレートで、透過した外光で辺りはぼんやりと明るい。ああこの雰囲気もいい感じだなあとケータイ取り出して写真を撮る。現実では一度も持ったことのない、フリップ式の白いガラケーである。廊下を進みくだんの「コンベア」の所に到着、斜め下方に伸びる構造物は確かに錆び付いていて動きそうには見えない。数階ほど下方の地上部分にも談笑している仲間たちが見え、コンクリや木造の古臭い建造物がデコボコと建っているが、それら全て現在のこの場所と内部で繋がっているようである。更に先に進むとアパートか文化住宅のように、同じ形のドアと窓がずらりと並んだ廊下に出る。外側は胸辺りまでのコンクリの壁で、はるか下方にスタートした小部屋が見える。その周囲に並ぶ建造物は屋上部分に洗濯物が干してあったり、室外機が並んでいたりとごちゃごちゃにぎやかしい。階段室を見つけて上に登ろうとすると上階に行かず天井にくっついていたり、ああこれは所謂トマソン物件だなと思ったりするなど、とにかく入り組んだ構造がずっと続く。住人らしきラフな恰好の青年と出会い、いやあこういう迷路みたいな場所にワクワクするので見て回ってるんですよと話したりする。この構造物複合体は、どうやら急な斜面というよりほぼ崖のような場所を延々と覆いつくすように構築されており、崖面自体もデコボコとしている上に建築様式も不規則とあってかくのごとく脈絡のない様相であるようだ。更に進むと数階分に渡る吹き抜けのような構造があり、その空間には骨組みだけに近い家が収まっている。この建造物は特に古いようで、木造の骨組みにはびっしりと蔦が巻き付き所々に青い花が咲いている。その横には崖面の段差が露出しており、ちょっとした湧き水の池と苔むした小さな祠がある。薄暗くひんやりとした雰囲気が心地よい。この辺まで写真を撮り続けていたがどうやらメモリ不足のようで、ケータイに警告が出る。画像保存場所を本体からマイクロSDに変えたらまだイケるようなので、そのようにする。吹き抜けを回り込むと分岐した通路がやがて地面の「道」に繋がり、外部に出る。草むらや田畑、ぽつぽつと点在する民家、鉄道路線まである至って普通の田舎風景である。しかしここが崖のてっぺんというワケでもなく、道の横には切り立った崖とそれに付随する建造物が更に上方に続いている。さてそろそろ元の小部屋に戻ろう、しばらく経ったがまあ何かあればケータイに連絡入るだろうし…しかし彼らは自分の電話番号知ってたっけ、うんまあいいやと帰途につく。この辺で「もうそろそろ夢から覚める」という感覚が意識に入り込んでくる。この雑然とした迷路のような空間がとても居心地よいので「是非とも覚めてくれるな」と残念に思いつつ、しかし詮方なく目が覚める。