夢の話は誰も聞かない

●夢を見る。長い夢の一部でその他の部分は断片しか覚えていない。山を切り拓いて作った高低差のある造成地のような所で、崖際にある建物の壁面にくっついている小さな構造物を自分含め何人かで見ている。温和そうな短髪メガネデブのおっさんが自分に「これに入って上から出るとあっちの崖上に行けますよ。中は狭いですが、私でも通れたんだから貴方もイケるでしょ」とからかうように言う。自分も妙に入ってみたい気分がしているので、構造物下部にある小さな開口部から入ってみる。中は狭いどころではなく、身をくねらせたり体を押し込んだりしてやっと進めるような状況である。最上部にたどり着いて上を見ると天窓があり、横を見ると狭い通路の奥にゴールたる崖上への扉がある。横の通路は自分のデブ加減ではちょっときついほどの狭さだが、先刻の「私でも通れた」という台詞を思い出してそっちに行くことにする。狭い中進もうと悪戦苦闘しているうち、グイと踏ん張った拍子に構造物全体がぐらりと揺れる。ゆっくりぺりぺりと建物から剥がれてゆき、みながこちらを見ているその下方、いかにも夢らしく全面きれいにコンクリートブロックで覆われた高低差数百m崖下が見える。あああっちに転がり落ちたら一巻の終わり、自分は死んでしまったなと覚悟するも何とか剥がれは途中で止まり、みなに引っ張り出されて事なきを得る。マンガのような断面図を見せる構造物が剥がれた後を見ながら、いやあ大変だったよとみなに体験談を話しているのは何故か自分ではない。痩せたオールバックのおっさんが、自身の見た夢の話として先ほどの状況を話している。どうやら自分の分身的な何かのようで、じゃあ別にいいかと自分も黙って聞いている。途中から明らかに自分の体験とは違った描写が増えてきて、延々続くドアを開けてゆくとかネジ止めされたドアをドライバであけたとか言っている。おっさんが手に持っているドライバがびょーんと伸びて1mほどになったりして、ああ彼が夢の話をしているこのシーンも夢なのだな、と思う。しかしこんな退屈な話を聞かされて、一緒にいるみなは不機嫌になったりしていないだろうかと表情を伺うと、だれもニコニコと聞いている。寛容なのか何なのか、ひょっとしてコイツらも全員自分の分身のようなものなんだろうか。とか思ったところで目が覚める。