淘汰の風景

●遅めの盆休みってことで実家に帰省していた。土産のついでにワシの先代のパソを持って帰る。四五年前のミニパソで別にエエモンでもないが、アプリ立ち上げるのに十数秒かかり下手したら熱暴走で勝手にオチちゃう実家のパソに比べればなんぼかマシでしょうしね。


とはいえ、自分の経験を鑑みても新パソ導入が波乱なく済むはずもないことは自明である。案の定、持ちおもりがするので本体だけ持って帰って周辺機器は実家のものを、という目論見がまず玉砕。キーボードもディスプレイも繋がらないんでやんのよ。まだキーボードの丸っこいコネクタは昔よく見た古いやつだなあってなもんだが、この…ディスプレイのコネクタは何ですか? Dサブ15ピンやDVIやHDMI、ましてやそれより古いモノでもない…なんだこれ。検索してみると富士通ディスプレイ専用端子、とのこと。…知るか! とちゃぶ台ひっくり返しても状況は変わらず。


脳みそ(パソ)だけあっても手と目が無くては何もできない。近所のDIYショップに自転車ででも行ってみるかと思ったが、両親が言うに「ついでに買いたいものがあるから一緒にもちょっと先の家電製品店に行こう」と車を出してくれる。ワシ免許ないのでこれはありがたい。そこで安キーボードやマウスやLANケーブル、モニタの代わりとしてさしあたってテレビを使おうってことでHDMIケーブルを買う。全部で3500円もかからない。戻ってきてから接続してみると、とりあえずネットに繋がって大画面テレビでの操作も問題ない状況。


さあそれでは旧パソから環境の移行を、ってこれがまたトラブルだらけ。メールの文書移動もブラウザのお気に入り移動もぜんっぜんストレートに進んでくれない。ネットの検索でそれぞれ何とかなったが、何やねん「インポートとエクスポート」っちう文言はただの飾りか! お前らまいくろそふとの開発陣、いっぺんでも実際にやってみたんか! メールメッセージデータのインポート、当該ファイルを選択して決定したら「データがありません」とか何とか出るのだが、正解はそれにくじけず同じことをもう一回ヤると無事インポートできる…って何やねんその仕様! マスターキートンに出てきた匠の時限爆弾か!


●結局帰省期間はだいたいパソいじりっぱなし。じゃあ帰るわと言うと父ちゃんが車で送ろうと駅までの道を乗せてってくれる。


道々の風景をぼんやり見るに、実家に居た頃とはずいぶん変わったなあと思う。最近整備が終わったその国道は、広めの四車線がまっすぐ延々と続いている。となると両側に見える建造物は行けども行けども似たようなもの、ドラッグストアとスーパーとカー用品と外食チェーン店とレンタルビデオ、これらを数件ランダムで選んでひとまとめにした平屋建ての施設にだだっ広い駐車場、である。車前提のぺったんこのお店がずうっと続いている、そんな風景。


もうこの辺の町は車がないと暮らしていけないなと思う。免許なしのワシはどうしようもない町だ。ふと昨日のパソコン四苦八苦を思い出し、ネット空間においては逆に多分ワシの両親の苦労は大概やろな、とも思う。車スキルにネット能力によって各々の住民が選別され、そこで生活したり生活してなかったりしている。


しばらく進むと古い区画に差し掛かる。この辺は数十年ほど変化していない様子が見て取れる。片隅の崩れかかった古い家屋は、何やらツタのようなもので覆われている。父ちゃんはそれ見て、あれは葛だなと言う。確か葛と言えば米国にて外来の有害植物の筆頭になってて、kudzuと英語化もされているくらいだったっけと思う。どんどんはびこる葛、広がってゆく郊外型店舗。さあどっちが勝つことか、となるとそれはタイムスケールによって答えが違ってきそうだ。十年二十年なら一時的に葛が排除されるだろうが、百年二百年となると淘汰されるのはどちらだろうか。さあ、そんな先のことは判らない。


●ウチへ帰る途中大回りして日本橋に赴く。最近ヘタってきたケータイ用の電池でも売ってないかなと探したのだが、目に付くところにブツはなし。ネットで探すしかないかなあ、とふらふら歩いていたワシの視線の先に、件の富士通ディスプレイが中古で売っている。値札に曰く「例のヘンな端子のモニタ」と。…お店の評価もそれかいやい! もういいや、アンタは淘汰されちゃっても。