霊玉伝

●バリー・ヒューガート「霊玉伝」読了。主役は前作「鳥姫伝」と同じく、希代の賢者にして酒びたりの俗物仙人である李高と、純朴で剛力、頭に自信は無いがけっこうカンはするどい弟子の十牛の二人。


前作も「ホームズワトスン」だなと思ったが、今回は、「書くものが無い? ならば例の事件について書けばよいじゃないか、そうあの石の話だよワトスン」てな導入部のおかげでさらにホームズものっぽい。…中身ははるかに幻想的なんですがね。あ、幻想もドイルの守備範囲内ではあるか。


舞台は前作と同じく架空の「唐」。伝説の狂王と司馬遷偽書、という魅力的な道具立てを得て、我らがデコボココンビはまたもや中国狭しと駆け巡ることになる。今回はちょいと足を伸ばして、じっくりたっぷりと「地獄巡り」にまで案内してもらえます。うーん、広げた風呂敷がデカイなあ。


サブキャラもなかなか。ボサボサ頭で絵画一途、才気走った劉宝王。怪力無双で大兵肥満、しかしてその器も実に大きな趙王…と、エライさんたちのキャラ立ち加減もおもろいが、何より今回のパーティの重要キャラは月童クンである。放蕩無尽にして自堕落千万、気立てはいいが無類のスケベ、それも衆道…モーホー専門。おまけにその美形ぶりたるや地獄の鬼も思わず尻を差し出してしまうほど。…コイツ、実にええキャラなんだわ。


あいかわらず土着的で力強いエピソード群は健在で、大陸的な大らかさと血腥さの同居した語り口には磨きがかかる。ただ、前作よりはちょっと西洋小説っぽい「理」が感じられますね。充分おもろいのですが。


日本の閻魔やエジプト神話、はてはギルガメシュまでカメオ出演する知識の饗宴。前作の方がタガの外れ具合がでかくて好きだが、この作品も侮れませんぜ。…てなことは、解説の山岸真がほとんど書いてらっしゃるので、ワタシの文章は別に読まなくてもいいです(ェェエ工)。いや、山岸のオッサンはあかんて。過不足無さすぎですよ。もう。