D&Dの映画

ダンジョンズ&ドラゴンズの映画見てきた。すげえおもしろかったです。

元ネタについては知識として知ってるのみ、テーブルトークRPGは大昔の学生の頃にT&Tをちょっとだけやった…とまあありふれたオタ野郎であるという前提として。…そう、この映画よくできてんのである。まず一般的な剣と魔法のエンタメファンタジィ映画としてものすごく丁寧で遺漏が無い。極寒の地にある巨大監獄にて恩赦の自己弁護してたらドツボにはまって大失敗というひっどいアバンのツカミから、あとは次々湧いて出てくる「事情を知る古き死者の墓」「展開のカギを握る謎の人物」「アイテム眠る危険なダンジョン」などなどを求めてこのフォーゴトン・レルムの大地を行ったり来たり。つまりこれは007やインディ・ジョーンズのような「世界を股にかけての物語」のテンプレだ。十数分のスパンで小さな物語を語っては目先の変わった場所に移るというシーケンスは、それ故に飽きさせない牽引力がある。

そしてD&D原作のアダプテーション作品としてですけども、これがまたよろしい。舞台をどんどん移す冒険モノってのは言ってしまえば古いRPGのおつかいクエストの集積であり、でもいやだってこれ実際古いRPGだからね…と開き直ってもしまってもいいけれど、それらイベントやクエストの「ソレっぽさ」がいちいち可笑しいのだ。たとえば上記の恩赦シーケンス、あれ絶対GMはプレイヤーの説得が上手いこといったと判断して釈放するとこで「いや俺ここは暴れるわ」つってプレイヤー側がやらかしちゃったってとこだよなとか、序盤すぐの脱走時に相方は衛兵相手に大暴れしてんのに主人公がいつまで経っても手縄を切れないのはあれ、延々とロールにミスしてんだろうなとか、そういうとこ。無論映画のスクリプトとしては練りに練った結果の出力なのは間違いないが、「そういうことなんだろう」って前提やセッションのノリを感じさせるツクリになってんのね。それがなんかこう、グッときた。

あと当然D&Dオリジナルの要素あれこれ。地名や社会構造などについてはあんま知らんので「ほーそういうものか」と見てたけど、ティーザーにも出てたアウルベアを筆頭に、「あっ天井の根太にラストモンスターが居る」とか「アックスビークまとめて飼われてるとナウシカのトリウマみたいだな」とか「昼日中にお外で見るゼラチナスキューブってなんか不思議…むしろおいしそう」とか、そんなモンスターの様相見てるのがすごく楽しいし、また妙に細分化されてて規約の多い魔法の描写も(劇中のセリフじゃないが)魔法で何でもできるってなシステムじゃそりゃねーよなーってなあるあるを感じるし。アリモノで苦労する楽しさってのはゲームの醍醐味だよね、みたいな。


…というそんな領域的感想は、まあ、実は本質ではないのだ。何がってその、あああそこにはごみごみした都邑や鄙びた田舎や厳しい荒野なんかに、ズルい男もヤバい女も耳の尖ったのも毛がもさもさのも身長100フィートのも体重5ポンドのもアホもヘタレも性悪者も聖人も居て、地下にはクソあっぶねえ洞窟が延々と伸びてて暗い角々にはワケの判んないモンスターがわんさか潜んでて、みんな必死に呑気に凶悪に高潔に、己と己の仲間を信じて裏切って寝返って改心して、死ぬまで生きて暴れて時々は死んでも喋ってて、そんな世界がこっから地の果てまでずうっと、在るんだろうなあ…という想像の余地。それをぐいっと押しつけがましく見せつけてくる。そこなんだ。そういう広い広い、生命力(と非生命力)にあふれたワッケわかんねーフォーゴトン・レルム(あるいはそれ以外のD&D世界)の、遠く霞んだ奥行きと立体感が私に乗っかってくるのである。…久々に、映画館から出た帰り道に「その映画世界に入り切ったテイで歩く」気分を味わったよ。

キャスティングはどなたもヨシ。リーダーにしてバードであるエドガン:クリス・パイン、口から先に生まれた軽薄さの裏にある苦い過去…みたいなめんどくさい役をこともなげに演じてる。どうでもいいけどこの役、戦闘に直接的に役立つスキルに乏しいキャラっぽいし、実際のゲームでプレイするのは相当な技量が要るだろなと思った。どうもロールの出目も悪そうだし、マジの頭の回転が求められるわな。相棒のホルガ:ミシェル・ロドリゲスは私がゴリラウーマン大好きなのでものすげえ文句ないです。ミシェル・ロドリゲスに求められるモノとして完璧です。あと当面の敵であるフォージ、こいつがヒュー・グラントですよ。薄っぺらい小悪党でペテン師だけど巨悪にもなりきれないヘッポコ憎まれ役…いいなあ。かつてのラブラブ映画定番男らしく笑顔が底抜けに明るいのよね。うーんペテン師だよなあ。

うん、堪能しました。面白かったしこのノリこれまではもったいないので、折角だから続編とかドラマシリーズとかスピンオフしてはどうか。そうだ俺いいこと考えたんだけど、ゲーム化したらいいんじゃないかな! どうかな! てことでさようなら。