夜歩くワシ

●ふらふらと帰宅の途。あとちょっとでワシの家じゃあ、ってとこで「あの、すいません」とお声をかけられる。ちょっと鼻にかかった、後藤邑子っぽいお声のお嬢さんがおっしゃるに「最寄の駅はどちらでしょう」と。途端に疲れも吹っ飛び、フハハハそういうことならワタシにお任せなさい、駅ならばこの道をまッつぐ進んで高架を越え、線路にブチ当たって左に進むこと、さすれば自ずと見えてきましょう…とご教授する。このときのワシの声は政宗一成土師孝也、はたまた小杉の十郎太、てなイキオイの美声だったに違いない。少なくともワシの脳内ではそうだ。


お嬢さんは大いに感謝して去って行かれた。ああ良いことをしたなあ、多分彼女にはこのワシはナイスダンディなゼントルマンと見えたであろう。幸いにもこの時間帯は夜目遠目傘の内という条件の一つに当てはまる。よってきっとイケメンに見えたであろう。ああそうだとも、体重も-10kg程度には見えたであろう。ああ良かった夜中で。


いや待てよ、考えてみれば双方条件は一緒であった。とすれば向こうのお嬢さんも、一見後藤邑子声の清楚な女性に見えたけれど、それは夜目補正の賜物だったのかもしれない。白日の下で会うとなればひょっとして、真山亜子声の還暦女性という可能性も…! ああ、夜目に感謝せねばなるまい…!


●今検索してみたら、真山亜子さんって51歳なのな。若ッ! この文章で挙げた人名で二番目に若かった。うはあ、すんません。