奇術師

クリストファー・プリースト「奇術師」読了。何の話かというと奇術師の話である。ったりめェですね。確かこないだ映画化されて、邦題が「イリュージョンVS」とかいうのに決まりかけてファンが絶望したとかしなかったとか。結局原題の「プレステージ」になったのでしたっけ。ワタシは映画見てないのでそれとの比較は出来ませんが、どっちにしてもかなり端折った映画なのだろうな、と思います。そこそこ分厚いもんねこの本。


ジャンル分けするとSF…というよりは、空想科学小説っぽいノリではありますな。時代が19世紀末〜20世紀初頭だし、扱ってるSFガジェットも古色蒼然たるものだし。解説に「語り」の要素が大くなっている作者の傾向が書いてあるが、確かにこの作品にとって一番重要な要素はその体裁である、と言えんこともない。大時代的な状況設定やヤケに凝った言い回しや古臭い固有名詞や、ああ懐かしきテスラご本人まで登場するのだ。そのテのものが好きな御仁にとってはとても楽しい読書体験になるのではなかろうかね。アチシもですが、ね。


ただ、そういった「時代」を思わせる雰囲気があともうちょっと伝わってこないのは翻訳によるもの…でしょうか。結局は原文に当たらな判らんのだろうけど、それにしても現代を舞台にした個所と過去の文書という設定の個所にあまり差異がないように見えるんだよな。いや正確に言うと「同じ時代の同じ人が書いた文章」に見えすぎるというか。翻訳ってのは一にも二にもリーダビリティであるのは間違いないワケで、そういう意味では全く正しい処置ではあるのだが。訳者略歴見たら黎明の王とか火星夜想曲とかやったはる方でして、それらではあまりそういうクセは感じなかったけどな。うーん、ワタシが気にしすぎているだけかしらん。


…あ、SF的プロットについては結構判りやすく、いっそストレートとも言えるようなものでした。何となくもっともっとこんぐらかったような仕掛けを想像してましたので、ええ。それよりも一つの事象(事象ったって数十年スパンのことなんだけどさ)を二人の人間が見たらここまで差があるのかという、視点シフトによる認識の変化ネタが楽しかったな。この辺はどう映像化したのか見てみたい気がします。


てことで面白かったですが、んー、個人的には後もうちょっと「時代的な澱」みたいなフレーバーがあると良かったな。