ティンカー

ウェン・スペンサー「ティンカー」読了。本らしい本を読み終わったのは久々かも知れない…って、最近たまに本読むたんびにそんなこと言ってますが。読書復帰リハビリってとこですな。まあその。


ティンカーってのはヒロインの渾名であり、当然ながら油まみれでポケットはナットとボルトで一杯の少女である。仲の良いいとこの名はオイルカン…って渾名にしてもすげえな。このお嬢さんがエルフ(ファンタジィ)とホバーバイク(えすえふ)が同居する近未来のピッツバーグで大冒険、とまあそんな話…だろうと思って買ったのよ。いや確かにその通りはその通りなんだけど…。


舞台設定や道具立ては(ワシよう知らんよ、知らんけど)結構ラノベっぽいところもあるのよね。スクラップヤードに住まうティンカーさんはハネッカエリで悪口だけど根はどうしようもなく優しくて、工学技術と理論物理は血筋そのままに天才の域。そんな彼女にイラストから抜け出したようなエルフがホれちゃったので大騒ぎ。まあここまではヨロシ。しかし流石は米国のファンタジィでんなあ、そっから発生する事件が思いのほかリミッター越えなのでちとビビったりしてね。細かい描写に割と容赦が無かったりする。拷問シーン(あるのよ)のエゲツ無さはある意味で引くかも知れん。


作品の大きな要素として「オトナの思惑には裏がある」ってのがある。この作品に登場する大人がもたらすものは、それがエエものであれヤなものであれ、ティンカーの思いもよらない結果をもたらすことが多い。その最たる体現者はエルフであり、不老たるこの種族がよかれと思って行う行動は大概の場合大ショックのもととなる。取り返しがつかない「福音」を受けたティンカーさんの懊悩が中盤の主題ですな。


エルフや異世界関連の一切を取り仕切る巨大組織EIA、その長官であるメイナード。彼は当然ながら完璧なスパイの親玉キャラなんだけど、その不透明さが却って「裏表のない大人」としての属性を与えてるのが面白い。そらそうだ、彼がある真実を語らなかったからって立場上それは当然ですもんね。逆説的に彼はこの世界で一番信頼できる大人なんだよな。…後半ちっとも出てこなくなるのが残念なくらい。


中国が一枚噛んでたりオニやキツネやテングが出てきたり、割と唐突なオリエンタリズムは作者の趣味によるものらしい。SFファンの一環としてマンガやアニメのコレクターでもあるそうな。この翻訳本が出た時に当然作者のところにも寄贈されてると思うが、じつにかわいったらしい表紙絵エナミカツミさんという方でした。覚えておこう)の装丁を見て喜ばはったんと違うかな。アチシは米国版の表紙絵もすんげえエエとは思うんですけどね!