これはマグリットではない

●こないだ「この時期は日が落ちるのが早い」と言ったけど、それは時刻的な話だけじゃなくて、夜への変化が唐突だからってのもありそうな気がする。つまりその、夕焼けとか何とかの「夕刻的風景」が希薄なんだよな。青い空からいきなりとっぷりと来るイメージがある。これはワタシだけの印象だとは思うけれどさ。


日が落ちてまだあたりが明るい時、近所の公園を通りかかったら、公園の木の真っ黒なシルエットを背景に青くて明るい空が見えた。ちょうどアレだ、マグリット「光の帝国」みたいな感じ。カチンと澄み切った空気感も併せて一種不思議な風景であり、思わず足止めて見入ってしまったよ。


マグリットはかなり好きな画家さんである。美術的な意義はよう判らんが、とにかく見てる側が楽しいので好きだ。あれは描いてる方も楽しいんだぜ絶対。「ああ、部屋いっぱいに巨大なリンゴがあったらビックリするのにー!」とか「いやーんそうだ家は夜で空が昼だったらオモロイのにー!」とか、そういうアホなインパクトで余人の度肝を抜く、その精神が楽しいんですよ。…反対に、情念を真っ正直にぶつけてくるような画家さんは苦手でしてね。すげえ芸術ではあろうが、付き合うのに体力がいる。ワタシのようなヘボ人間にはしんどいのよ。


マグリットの作品では「アルンハイムの領地」が個人的に印象深い。手前の塀の上には鳥の卵、彼方には雄大な山脈が雪を岩肌に残してそそり立つ。シミターのような月が光る、昼でも夜でもない不思議な青色の空を背に、山の稜線は猛禽の顔となり、山塊の翼を広げている…という、そんな絵。ワタシはこの妙に明るい青色の空にひかれて、中学の美術の授業で絵皿の画題にこれを選んだ。その絵皿は今でも実家にあると思う。


美術の教科書に載ってたので画題にしたのだけれど、教科書のキャプションには「鳥の卵が遠くの山に親の姿を見ている」とあった。それを読んだ瞬間、この絵に感じていた不思議な魅力が色あせ縮こまって、ひどく俗なものになってしまったような気がしたのを覚えている。教科書たらいうもんは余計なお節介をするものであるな。


●だいぶ前NHKマグリットの映像が出ていたが、インタヴューの間このおっさん口からケムの出てない時間が無い。ばふんばふんである。そりゃモチーフとしてパイプがよく出てきもするわな。