怪談、病棟に忍び寄る悪夢

●そろそろ怪談やら何やらのシーズンであるが、ワタシは怖い話は怖いので怖い。故にホラー系の映画などもほとんど見たことがない。だって怖いからな!


幸いなことに霊感だの何だののセンスは薄いようで、超自然的な恐怖に遭遇したことはほとんど無い。ほとんど、ってことはごくわずかにはあるんですがね。ま、それはそれ。股の機械…もとい又の機会に。…ちゅーことで、急に思い出したので系統の違う怖い話をする。これはワタシが実際に経験したことなのです…。


●中学と高校の間の休み期間、ワタシは足の骨を折って入院していた。下半身麻酔してボルト入れるというそこそこ大きな手術の後、しばらくの間はベッドで点滴される毎日が続いたのである。


ある朝。毎度の点滴タイムなんだけど、いつもとは違う色の点滴薬が架台にぶら下げられた。まァ治療の過程にも色々あるだろし、ワタシは特に気にも留めずにボーっと窓の外なんか見てたりしていた。


そしたら。廊下で「ばたばたばたッ」という慌てた足音がして、先刻点滴を設えた看護婦さんがマジ顔して病室に飛び込んできた。点滴薬の名を確認したかと思うとすげえ早業でワタシの点滴針を引っこ抜き、彼女はそのまま薬液持ってすっ飛んで出て行った。


しばらくしたらまた、その看護婦さんがやってきた。満面の笑みを浮かべつついつもの点滴をワタシの腕に射し、「ごめんごめん、間違っちゃった。大丈夫、さっきの点滴はただの食塩水だから。安心してね」と仰る。はあ、そうですか。


処置を済ませてそそくさと看護婦さんが去る。またぞろボーっと窓外を見てたら、件の看護婦さんがまた別の看護婦さんといっしょにやって来た。お連れの方が言うに「さっき点滴を間違ったんですってね? 大丈夫、あれはただの塩水だから。大したことないので気にしないでね」と。ええ、判りましたよ?


その二人が去るのと入れ替わりってな勢いで、なんか知らんが婦長さんが来る。曰く「間違って点滴を打ったと聞きましたが、調べてみたところ大丈夫。ただの生理食塩水で害はありませんから。ご安心下さいね」。その、安心…ですか?


午後になって院長先生の回診である。ワタシの病室に入るや否や先生は「朝方に間違えて打たれた点滴は、あれ大丈夫だからね? 大したことないからね? なあに、しばらくしたら忘れるさ」。


…当然ワタシは、この日よりしばらくの間寝られなくなったのであった。…確かに結局何もなかったんだけどさ。