怪異と乙女と神隠し/ザ・ファブル

●怪異と乙女と神隠し・最終話。アバンの描写見るに乙ちゃんは戦争の余波で飢餓に瀕した兄妹、つまり火垂るの墓のような状況だったのかな。本編は乙ちゃんがあるべき彼方…まあその、彼岸に至るまでの話。化野兄さんはどうやら、乙ちゃんの本当の兄ではない。彼女が絶望の中で死に臨んだ時、兄と呼び掛けて「呪」をかけた怪異なのだろう。だから、自分を対価として乙ちゃんを送り届けることができる。だから、彼は「妹」と一緒に電車に乗ることはできない。

乙ちゃんが、そういう事実を飲み込んだうえで、列車に乗って一人去っていくってのはいい覚悟だなと思った。ラスト、万置きの本を通じて残った人たちに言葉を贈るというギミックはキレイだったな。

…とまあそんな美しいお話のオチが「一緒に風呂には入らないけどな」「えええ!?」ってのはよろしかった。そういうスカシは好きである。…あと猫の人は結局なんも無しに終わっちゃったな。実際の活躍はこのあとなんだろうかねえ。

●総評。バジェット的にそれほど大きな作品とは言えないのだが、それでもよくまとまって適切に構築されたアニメ作品だったなってのが感想。だからこそ惜しいとこが残ったなあ、とも思う。

原作からのものであろう、ちょいと生硬にも思えるくらいに情報が盛り込まれ衒学的であること、本と文学への偏重具合が大きいこと、何より登場人物女子の(多分これでも計算して節制した上での)あふれるフェチ要素とオタク文化要素てんこ盛り具合のこと。原作自体がかなりアンバランスな作品であることは間違いなく、そうなるとアニメアダプテーションとして同じくどこか破調とも言えるほどのトガったところがあったらな、という。演出や作画、レイアウトや音響とかどこかにね。

それらは上記の作品バジェットが絡んでくることなので、諸々勘案してこのアニメ化となったのは結局正しかったんだとは思いますけどね。それでもあと少しどっか…と思わざるを得なかった。そのくらいですかね。
聞けば原作とはちょっと違う流れでオチを付けてるようですが、そのおかげで猫王・時空のおっさんと消化不良なキャラも出たものの、エモい読了感もあっておおむね悪くない終わり方だったと思う。

あとキャスティングですけど、とにかくファイルーズあいさんは演技者としてのパワーがあるなあと再認識した。ちゃんとロリ状態の演技も押さえつつ、通常菫子さんの「高身長巨大ちち行き遅れこじらせ乙女」を現出できるってのは大層なことです。こういう役がイケる人って他にあんま思いつかんなあ。とまれ、楽しかった。何にせよ本と著作に関する物語ってのは、感情移入の度合いが高くなるねえ。うん。

ザ・ファブル・12話。ファブル潜入作戦、まずはミサキちゃんの救出。いつもの彼なら何とでもなる仕事だけど、今回は殺しちゃダメ・ミサキちゃん怖がらせちゃダメの二つのシバリで面白いことになる、という話運びの妙だわなあ。ま、そっから先の本ミッションはこの「寓話」の男の本領発揮ではあるのだが。

前回弾頭に細工してるとこでホローポイント化とかしてんのかなと思ったら、殺傷能力ナシの殺さないタマ作ってたのか。そんな玩具の銃と花火の煙幕だけで殺し屋連中をあっという間に無力化していく、この辺は一幕の見どころですねえ。これまであんだけ脅威を見せ続けてきた、容赦のないマジヤクザの小島がタメもなく撃たれてぶっ倒れる、あのあっけなさがいい演出。ファブルってのはそういう存在なんだってことやね。

ファブルに思うさま引っ掻き回され、敵味方カタギ本職みんな呆けた感じでただうち座ってる、あの「何だったんだこれ…」な空気感がいい。砂川と殺し屋連中のプロ組はまあ、このままってワケにもいかないだろうけどね。あとそんなおっそろしいファブルだけど、例えばヨーコさん相手だとフツーに抜けたとこあるバカ会話やってんのがいい。「死んでたらごめんなー?」「アタシに謝るなよお!」が好き。