ダンシング・ヴァニティ

筒井康隆「ダンシング・ヴァニティ」読了。ある美術評論家の中年ちょい前くらいからその死までの人生を描く話、なんだけど筒井康隆なので素直ではない。数ページくらいの短いエピソードが一区切りで、これをちょっとずつ改変しながら数回繰り返し、その積層でできあがった作品というか。解説に「Aメロ何度か繰り返してBメロに繋いで…という音楽的な手法」と親切に書いてあってなるほどと思ったのでそういう解題でいいや。

しかし当然ながら音楽と文学は違うので、音楽的に繰り返しパターンは楽しめても文学だとそうでもないんじゃないかなという懸念があって、音楽の繰り返しパターンはそのフレーズ自体が鑑賞側にダイレクトな情感をもたらす一方、文学でそれをやった場合ダレちゃうに違いないんじゃないかなというそんな懸念なんだけれど、その辺は割と大丈夫っぽい。一つ々々の繰り返しエピソードにほぼ必ず何らかのフックがあって、それは異常な状況であったりバカみたいなオチだったりといちいち面白いんだよね。だからこの作品の構造に慣れてくると「ほほーこのネタが次にはどう改変されてくるかな」みたいな期待感が出てきたりする。

そういう意味で結構エンタメしてる作品だなと思う。昔結構筒井作品を読んでてしばらく空白があって割と久しぶりに戻ってきたんだけど、老境に至ってもちゃーんと「筒井康隆」っぽいクセ球を投げつけてくる辺りやっぱスゲエなと。何だかんだでサーヴィス精神旺盛な人なんだよね、筒井さんは。