そらのおとしもの/空中ブランコ

そらのおとしもの・最終話。そして天女は羽衣を纏う。己が価値をあるがまま認めてもらい、イカロスさんとニンフさんは天の刺客を退け、トモさんたちとの共生を選ぶのでした…というお話。いやあ、最終回だけあって作画も演出も大上段である。別れのシーンが感情と表情を隔てた「お面の告白」だったり、天使たちがくびきから解放されるシーンがそのまんま「鎖を断ち切る絵」だったり、小道具や情景使って盛り上げる小技がよう効いててベタベタな良さがありましたか。


…でも、鎖切ったら大爆発ですよと言われて「だからどうした」はどうかと思いますよ皆さん。そこはもうちょっとだけ、考えたりしてもエエのでは…ってまあ、ある種の寓話的物語にそんなん求めてもしゃァないのかも知れんが。


イカニモ悪っちい破壊の天使さん二人は…根谷美智子岡本麻弥。こ、これは怖ェぜ? 声の貫禄と押し出しだけでブルっちまわあ。ラストちょっとだけ出てきてそれまでのレギュラーと渉りあうにはこれっくらいの貫目が要りますかなあ。うーんかっちょよし。


総評。ヘタレスケベ少年の前に謎の力を有した天使みたいな女の子が降ってくる…というまあ、これ以上はちょっとないくらいのオチモノテンプレアニメ、ではあったのだ。KENZENなえろといいちょっとシリアスな設定を乗っけてきたりするところといい、そういうのを求めている人たちの需要を満たすような作品の範疇を越えるような所はほとんどない。無論だからダメだっていうワケじゃないが、プログラムピクチャーってのはテメエの趣味に合致しないとちょいと辛いところがあるしねえ…。


というワシ(だけじゃないだろうが)の思いをバコンと吹っ飛ばしたのが2話だった、のですよね。学校の娘さんたちのぱんつが脱げて空を飛び、世界を巡って感動を与える。…うーん、こういう突き詰めすぎて半分狂気の域に突っ込んだようなギャグ描写は割と久しぶりだったぜ。初回のインパクトよりは落ちるものの、その後も幾度か度を越したバカの片鱗が見られたので十分に元は取ったな、という印象はある。個人的にね。


作画的な質を保ったままで駆け抜けたのは大したものですわ。あと、エンディングで毎度遊んでたのも然りながら、提供画面で「本日のCGコーナー」みたいなのを出してた妙なサーヴィスが印象に残るなー。あれ、地味にちょっと楽しみでしたよ。へー今回はモブまでCGだったのかよ、とかね。


空中ブランコ・最終話。ラストのお客は「患者じゃない普通の人」であるところの古谷徹さんである。イラブ先生は「こーゆーのが一番めんどくさい」と言うのだが、そうねえ、どこにイガみが来ているのかがある程度ハッキリしている「患者」ってのは対処しやすい、ってのもあるんだろうなあ。


家族から仕事に逃避している古谷医師は、普通であるだけに却って辛く、また最も異様に描かれる。周囲をドロドロの水玉模様に変えつつ幼児退行して吼えるシーン、これはもう古谷徹のおっさんの真骨頂でんなあ。この幼稚でバカチンな演技は流石でしたぜ。…医者は全ての「炭鉱のカナリア」を救ってやらねばならんっちう命題はなかなかに重く、その言葉を心身弱ってる古谷先生に置くってのも大概だが、いやこれは「副理事」で同業者であるイラブ先生なりゃこそ、なのだろうな。ま、そこそこでいこうや。うん。


総評。原作は精神医学を題材とした軽いエンタテイメント、っちうところなのだろう。実際、毎回出てくる患者たちに深刻で危急の者はおらず、仮に本人にとって一大事であってもかなりコメディっぽい語られ方で処理されている。まァ実在の症状をモチーフにしてる以上、その病状を持った人に対して無用にマイナス感情をもたらしてもあまり良かないしねえ。


んで、その軽さがどうもキレイにアニメ作品としての面白さに直結してたか、っちうと…ちと残念っぽい感じだわなあ。軽いというか、薄い。特に初期の数話は展開にほとんどヒネリもなく、「…え? これで終わりなの?」って感じのスジが多かったような。無論精神医学ってそんなもんですよ、と言われりゃそうですかと言うしかないが、でももうちょっとねえ…てな印象はある。


それでも、シリーズ後半に行くに従って展開やギミックが多様化してきて、割と面白く見られるようになってったのは個人的に僥倖。岩田光央さんの「強迫観念とともに生きていく」っちうシメ方とか、あーエエなと思いましたよ。オリバー・サックスの著作に出てくる「チック症状持ちの外科医さん」を思い出したりした。


奇矯でケバい、凝りッ凝りの雰囲気で統一された画面設計は、…ワシ前作の化物語のソレはちと胃もたれ気味で視聴脱落しちゃったんだけど、今作においてはその題材とともに割と決まってたのではなかりましょうか。「内容が薄いので外見で取り繕おうとしてんの違うか」と下種な勘繰りしたりもしましたけどね。三ツ矢さん(とパクロミさん)の楽しそうな俗物的演技は楽しかったっすわ。うーん、そんなとこかな。