魔術師エベネザムと不肖の弟子

●クレイグ・ショー・ガードナー「魔術師エベネザムと不肖の弟子」読了。変化球作品となるとつい手の出てしまうワシをどうしたものか。ってことで既成のお約束を逆手に取る系、のファンタジィ小説である。この手のジャンルもそこそこの分量がありますが、今回のはどんなんかーなー、っちう、ね。


西域きっての大魔術師エベネザムとその弟子ヴァント坊の物語。金にガメついが実力と威厳はモノホンであるエベネザム師なれど、ひょんなことから魔術アレルギーに罹ってしまったのでさあ大変、ごく初歩の魔法を行使するにもくしゃみ連発で一苦労。魔術はほぼ封じられている身ながら、そこは機転と工夫とハッタリで路銀を稼ぎつつ治癒目的の旅に出る師匠と弟子のコンビだが、当然ながらまあ、エエとこで失敗したり意外な事実で金がパーになったりするので困るのだわな。


そんな師匠のアレルギーや運勢の悪戯だけではなく、そこそこ困った旅の障害要素なのが魔法使の弟子にして本作の語り手、ヴァント坊その人。この童貞ガキっちゃあ行く先々で美しいお嬢さんに惚れて興奮して妄想しては(ただでさえ危なっかしい状況をさらに)混乱させてゆくのである。自分では全て真実の愛のつもりなのが身にしみて痛々しい。さて、彼ら二人を待ち受ける運命とは如何に…という。


とまあ、そんな感じのある意味よくあるお話である。こないだ「図書室のドラゴン」を再読したとこなのでちょっと比較しちゃうのだが、まァ比較対照がアレってェのは問題でもあるのだが、ちうか比較して読むことに何か意味があるのかよう判らんとこではあるのだが、まいいや。とりあえず違うのは決定的に毒が少ないこと。「図書室〜」の方は、諦観したようなドライさと精神の底の方からチロリと顔出したような皮肉性、そして人を喰ったメタ的仕掛けが特徴だったのですが、本作にはそういうビターな味わいは少ない。


つまりその、この「エベネザム」にはひょっとして、しゅれっく的な映画化の話はあるかもしれないが、「図書室」は到底そんなことはねえだろうな、っちうことだ。言わばこの「エベネザム」の身上は軽さと浅さであり、そして無論それはちっとも弱点欠点ではない。そういうライトでテンポよい構成とユーモアがあるからこそ、あのシメ方に心温かな余韻が残るのでもあるしな。


状況のひねり方という点においてはかなり工夫されてて、さて次の章ではどんなバカ状況が発生するのかなと思わされる作り方は上手く出来ておる。…上記のごとく陰惨だったり皮相だったりするような仕掛けはほぼ無いので、純粋にそのひねり方を楽しめるのはエエ味付けと言えましょうて。いささか短いのがちょっと喰い足りない気がするが、ま、サッと始まってパッと終わるのも潔くてよろしいか。とまれ、手軽に楽しめるのは美点であってワシはそこそこ満足しやした。…三部作の一作目なので、まだ旅の途中なんすけどね。続刊が古本屋で見つけられるかどうか。さてなあ。