スロー・リバー

ニコラ・グリフィス「スロー・リバー」読了。何の話かというと近未来下水道誘拐レズお嬢様話。それがイギリス的な階層社会/陰鬱社会トーンで描かれるという、そんなの。要素だけ挙げると割と混沌としてるみたいだけど、各々にヒモ付けて括ったみたいにこれらが妙に呼応して一つの「色」になってんのな。その中では「レズ」の要素が最も目立たない…というか、自然にそこにある感じ。作者の言う通りクィアとSFは相性がいいんだろうな。これが現代舞台の作品だとレズビアン要素が悪目立ちし過ぎちゃってたかもしれない。


おッガネ持ちの社長令嬢が誘拐のゴタゴタで一気に下水労働者となって、何で何でこうなったのワタシの家族はどういうつもり? てなスジを、幼少時/誘拐され中/下水労働者中、の三時制で語るという構成。労働者パートがメイン気味の扱いであり、主人公ローアさんの境遇や心境が(個人的に色々と)身につまされたりもするが、このパートがやっぱ一番おもろいのではありますな。


機転と知識で危機(ってったってリサイクルした上水に致死毒物が紛れ込んで事業所大混乱、てな類のものだが)を乗り越える…という、形だけ見ると「おお、主人公大活躍!」なシーンもあるが、そこ読んで感じるのは「ああ仕事上で大事にならずに済んだ。よくやったぜワシ。よくやったぜ上司同僚。帰って寝る」という疲労感。なんかリアルでねえ。


まァメインテーマは社会構造と人の心理構造、それらは重層的にしてパカンと割り切れるものやおまへんで、てなとこなんでしょうけどね。それを「下水」という観点から、単なるメタファー以上の鬼ディテイルで描写してんのがどうも面白かったっすかね。…あとやっぱ英国作品っぽいなあという偏見ですが、雨と寒さ、湿った夜のイメージが濃厚なのよね。だからこそたまにある陽光描写が目立ったりするワケで。