ハンターズ・ラン

●マーティン&ドゾワ&エイブラハム「ハンターズ・ラン」読了。共著者の一人ジョージ・R・R・マーティンの「タフの方舟」を読んで面白かったのでこれも読んでみようと買ったもの。えー、物語の舞台は開拓惑星サン・パウロフリーランス探鉱夫のラモンは、とある山中にて未知の異星人にとっつかまって使命を押し付けられる。「こないだこのエリアから逃げた人間を探し出せ、お前は同じ人間だから行動パターンも読めるだろう」ということで、お目付け役の異星人・マネックに懲罰機能付き首紐でつながれつつ、いやいやしぶしぶ人間狩りを開始する。そうこうしてるうちに「脱走した人間」の意外な正体が明らかとなり…とまあ、そんな感じの話。

作品として特徴的なのはその舞台と主人公の設定だろうなあ。固有名詞で判りましょうが、これどっぷりラテン世界なのね。ワタシら凡人が思い描くラテンノリと言えばまず情熱の国であり、勿論この物語でもそれはそうなんだけど、それ以上にとにかく剣呑なのだ。セックス&バイオレンス&アルコールですよ。主人公のラモンを一言で言うなら「チンピラ」。ヒーローどころかダークヒーローですらないただの暴力おっさんである。冒頭まず酒の席でグリンゴ(よそ者白人)をナイフでぶっ殺し、その足で女のところにしけ込んで一発気を遣り、朝になって町に出たら前日の殺人がどうもえらいことになってるようなので慌てて人跡未踏の山ん中に逃げ込み…ってところで異星人に出会うワケですからね。

あらすじで判るとおり「ファーストコンタクトもの」にして「バディもの」である本作。こういう場合二者のギャップが大きいほどその物語効果も劇的になるものなんだけど、形容の言葉にも困るような異質極まりない宇宙人に対置する存在として「ガテン系でラテン系のチンピラ」ってのは…うん、確かにそれはすげえギャップですよね。もとが中篇でそれをふくらませる形で成立した小説ということもあり、話は割と単純に進んでゆくのだが…いやあ、この二者の取り合わせの妙もあって実に話の牽引力が高い。酒井昭伸のこなれた訳もあって、すらすらと読了してしまった。ちょっともったいなかったかもしれん。

あとがきによればマーティンの担当仕事の一つとしてビルドゥングスロマン要素を持ち込んだことが挙げられるとの由。実際ラモンさん(とその「相方」)はこの妙な旅を通じて色々と変化してゆくし、変化させられてゆく。上記の通り単なるチンピラだった彼が、内省を通して重層的なキャラクタを獲得するんですね。後半、夢うつつの中で河下りをする場面があるんですが、この辺りの意識と無意識の流れが混じりあってゆく描写が見ごたえあってよろしい。

あーそうだ、そのあとがき。原著者と訳者とで2つあとがきが付いてんだけど、その冒頭に警告してあるとおり、原著者のあとがきにはかなりザックリとネタバレが書いてあるのでこれから読もうって方は注意。ま、それで台無しになるような作品でもないが、一応ね。