パイプのけむり

●帰り道、とある初老の紳士を追い越す。五六十歳位か、黒ぶちの眼鏡、痩せ型で中背の体格をベージュのロングコートに包む。


このおじさんがね、パイプ燻らしつつ歩いたはるのだ。それもワタシらが「パイプ」つって思い浮かべるような、黒くて緩やかな曲線を描いたアレだ。つらつら顧みるに、現実世界の通行人でパイプくわえた人に出会ったのは初めてかもしれない。


追い越したってので判るとおりこの御仁、実にゆったりと歩いておられた。まるで周囲の風景を愛で、歩く事を楽しんでいるかのようである。…パイプくわえてるのに気づいただけでこの扱い。いつもなら「トロくさいおっさんやな。足腰弱いんか」とでも思ってただろーにな。印象操作に弱いワタシである。


…惜しむらくはお帽子であったな。シルクハットや鹿撃ち帽にせよとは言わんが、やっぱそのう、パイプに野球キャップは似合わないと思うンよ、おじさん。