昭和元禄落語心中/鬼平/オルフェンズ

昭和元禄落語心中・最終話。月日は流れて十数年、あどけなかりし信之助は今や期待の若手落語家になっていろいろと苦悩している。繊細な物腰に見合った気の弱さは先代の八雲らしい雰囲気で、妹の小雪がいかにも助六-与太郎ラインのあっけらかんとした人タラシっぷりなのと好対照。んであんなヒネっぽい雰囲気しといて小雪には「世界一かわいい」と言い切るというシスコンキャラがなんかいい味している。

なんかやたらと貫禄の出た小夏っちゃんに、九代目八雲を継いでしまった与太さんの登場。新しい場と古い伝統、そんなものがない交ぜになって落語は生きる。因縁の(まあ先代の因縁ですけど)死神を高座に掛け、案の定と言うかやっぱりというか先代の霊だかなんだかを引き寄せてしまった上で「なんだ夢か」でシメちゃう九代目の存在がその象徴だ。しかしまあ、ここまでよくも温かいハッピーな終わり方に寄せられたもんだなと思う。与太郎様様、ってとこではあるなあ。

さて。これは明らかに八雲師匠の生涯の物語であるのだけれど、最終話を見ればもう彼の存在感はかなり薄く、キッチリと九代目八雲…まあ与太さんとそのご一統のお話になっている。よくも悪くもあれだけの存在感を視聴者に刻み込んできた八雲でさえ、だ。それだけ与太さんたちが人間として、物語としてしっかりと語られているということであり、またその継承こそがキモでもある。自分が愛してきた落語とともに心中しようとした八雲師匠は、しかしそうするにはちょいと情がありすぎた。結果、上記の通り薄れているとは言え、彼の落語も形を変えて残っている。…ま、上でも言うたが与太さんが居なかったらどーなってたことやら、って面もありますがねえ。

●総評。いやはやようこんな作品やりよったなと、そういう感想しかでてこないよ。まず真っ先にみな思うのはメインキャスト陣のどうかしてる演技力だろうけど、特に石田彰のあの存在感たるやあきれ返るばかりである。器用貧乏ならぬ器用大富豪の山寺宏一を相手に回しての「アレ」は大概だ。正直言うと、落語家としての上手さで言えばやっぱり関智一、あるいは山寺の方に分があるってのはそうなんだけど、それを容れてもあの八雲というキャラクタは世界中で石田彰にしかできなかっただろうなと思わされる。落語家・加齢表現・他の落語家をなぞる演技・未熟さ。いったいどんだけの演技レイヤだよ。

あと声優演技にかくれがちだけど演出やよね。高座の上にただ一人、見てる観客がテメエの想像力の裁量でもって補完するという落語という演劇を、アニメーションのいちシーンとして面白く見せるためのあの手この手が素晴らしい。いや、これは相当に手間ひまかかった創作物ですよ。見ててうなることしきりである。こんなアニメをいくばくかでも勝算があって企画できるってのはどういう心臓なんだろう。スゲエや。

てことで、うん。自分の趣味に合っていたってのも大きかったとは思うが、それにしてもちょっとできすぎた作品であった。たまにこういうがっぷり四つの本気作品が出てくるんだからこのギョーカイは怖い。ともあれ、製作者ご一統にあってはホンマにお疲れさんなこってした。参りましたよ。

鬼平11話。火付盗賊改方長官の妻、久栄さんにはちょいと重たい過去がある。他言もしづらいその事実をネタに、「むかしの男」そのものが彼女の前にゆらりと立ち現れる…という話。まあ何だ、いかに平蔵本人が居ない時を狙ったとはいえ、あの火盗改んとこにユスリ掛けてくるとは「手の込んだ自殺方法を思いついたものだ」ってなもんではありますがね。向こうからすれば久栄さんが通り一遍の女だと踏んでのことだったのだろうが流石に覚悟が違いましたという。…なんかやたらと人員揃えてたようだけど、正味んところ何をするつもりだったんだろうね。

お頭が居ないのをいいこと…いやその、ものともせずだ、敵を追いつめる手法として隠れ家に火を放っていぶり出されてきたやつばらを皆殺し、とかやらかす佐嶋さんとそのご一統がなかなか。火付を改める側だけあってその威力はよくよくご存知でありますな。

「むかしの男」に三木眞一郎、ゲスくて志の低い悪党を喜々として演じてはる。こういう役も似合うよね。毎度ながら超ベテランをぽこぽこキャスティングしてくる本作だが、今回は京田尚子森功至。背景も語られずちょこちょこ暗躍した末におまさに一瞬で殺されるババアに京田さんってのもびっくりしたけど、久栄の父・森功至はスタッフロール見るまでホントに気付かなかったよ。…これで今でも青年声出せんだからスゲエわなあ。

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ・49話。オルガの死は鉄華団に暴走のキッカケを与えかねない衝撃である。ユージンやダンテがその事実にどう反応するかはまあ予測も付くが、さてミカはどうだろう…となるとなかなか想像が付かん。てことで蓋を開けてみれば「オルガの命令を果たす。その妨害あらば殺す」とまあ、そういうアレである。とりあえず暴走の危機は無くなったが、代わりにちょいとした「悲壮美」みたいな雰囲気が強化されたような気もしたりして、まあ気のせいでもないんだろうけどね、という。

そんな中、あんなけ余裕を見せた振る舞いしてたマッキーが死ぬという流れ。要するにこの人、どんなピンチになっても相好を崩さない性ですよという…まあこの立場のキャラに焦られてもこまるんだけどね。とりあえず、彼に引導を渡したのがガエリオであった、ってのはとても平仄が合っててよろしかったのではなかろうか。もう喋るなバカチン、さもないと「お前を許してしまうかもしれない」と叫ぶガエリオは本当に根が甘い人なのだ。

こうなってしまうと鉄華団はもう、頼りないことこの上ない。もともとが愚連隊的な強みでのし上がってきた野郎どもなのだが、こういう「大人の世界」に来てみると後ろ盾やらカシラやらいう存在の欠如がどれだけキッツイことなのか。今、鉄華団の顔と言える存在はもうミカくらいであり、それはとても強い存在ながらキャラ的にどうにもラスタルと噛みあわない。ううん、ますます滅びの美学たらいうアレがちらつきだしますが…どうなることやらなあ。