空洞地球

ルーディ・ラッカー「空洞地球」読了。ラッカーと言えばぶっ飛んだセンスでありながらベースがきっちりとした科学ネタであるのが特色のヘンなおっさんであるが、この話は19世紀中盤の米国が舞台でフィーチャーされてんのがE・A・ポオ、ってとこで他の著作と一線を画す。古い小説のパスティーシュっぽいとこがあって主人公の15歳の少年視点なので、ぶっ飛び具合はほかの著作とどっこいながらそこそこ読み易い感じがします。この時代の南部人なりとは言え、主人公のレナルズくん割とニュートラルな感性してるしね。

さて。上記の通りこの作品はポオの作品を下敷きとしたパスティーシュってな側面がある。だからっちうかなんちうか、語り起こしはちょいとスローながら冒険が始まってしまえば一気呵成、次から次からヘンテコな怪物やら異常な世界風景やら驚異の異種俗やらのつるべ打ちであり、実際サーヴィス精神の塊みたいな本だなーと思った。そしてラッカーらしい身も蓋もないコメディ精神も健在。南極点にて行われる主要人物総出の「俺にその犬を喰わせろ」追っかけっこのシーンとか、どういう反応していいか困ったよ。主要人物っぽくてもかなりアッサリ死ぬし死んだからってそない引きずらないってのもラッカーっぽいのか、あるいはパロ元のテイストなのか(ポオって読んだことないからよく知らない)。

そう、まずこの作品はポオありきなのね。作品時点でまだ20代の若き文筆家ながら、既にしてすんげえめんどくさいおっさんの雰囲気満々。異常な冒険の先々で「この人が居たから助かった」というシーンは多々あって実際希代の奇才ではあるものの、基本的には要らんことしかしねーし回りくどい文句は言うし基本役に立たない。一緒に居たら絶対腹立つ人だけど、こうしてドタバタを脇で見てる分には実におもしろい。レナルズくんも苦労するわなあ、というね。

あとやっぱし「テケリリ」は外せないし、その上何だか古くて強大な存在も出てきていろいろする。ま、思いのほかエエ人ではあるんですけどね。人じゃないか。

ラッカーの作風って独特でスキなんだけど、そういえば最近翻訳小説見てないなあと思ったらホンマ、ブーム去ったみたいに翻訳が途切れてんのね。やっぱ黒丸尚が亡くなったからかなあ。リアルウェアくらいは出て欲しいんだけどね。