プロバビリティ・ムーン

ナンシー・クレス「プロバビリティ・ムーン」読了。あらすじ文なんかを読むと宇宙戦争っぽい話だが、実際のところはファーストコンタクト…いや最初のは済んでるからセカンドコンタクトというか異文化交流というか、そんな感じのジャンルに近い。敵役たるわるいうちゅうじんフォーラーはどっちかっつーと重要な舞台装置扱いで、話の主眼は単に「ワールド」と呼ばれる星の生命体さんにある。

この宇宙では地球人類を含めてパンスペルミアっぽくあちこちに共通祖先の生命が播種されているようで、ワールドの「人々」も地球人類と遺伝上それほど違わない。首毛があったりハゲだったり花が文化のベースだったりというマイナーな差異は置いといて、最も大きな違いは彼らが「共有現実」という認識の中で生きているということ。価値観から倫理観から何から何まで、全ての人々がビッタリと統一されている。それは強制とか同一個体のクローンとかじゃなく、「そうなってしまっている」という状況ですのね。故に小競り合いレベルの戦いも無く恒久平和に近い社会体制なのだが、しかし共有現実を得られない何らかの障害を抱えてしまった「非現実者」にとってはその限りではなく…というまあそんなん。主人公たちは共有現実のシカケを明らかにしたいなーと思ってこの星に来るが、しかし軌道上にワケ判んない超兵器がなぜか浮かんでたので、軍人さんたちはソッチの方に主な興味があって、その齟齬によってゴタゴタしたりというまあそんなん。

メインギミックの共有現実のネタは割と妥当ちうか「うんまあそうだろうな」って辺りに落ち着いてそれほどのビックリ展開も無く、またフォーラーとの戦いも規模が小さい(まあ比較的ね)ので、見所はやっぱワールドのどっか奇妙な社会だろうかしら。すっげえ強烈な同調圧力(とはちょっと違うんだけど)の中に生きてる人たちになんとか割り込もうとする苦労っちうか、村八分はきついよなあというか。あと登場人物に一人かなりのトラブルメーカが居られまして、このアレンさんは若くてプライド高くて人の話を聞かない上に何かにつけて状況擾乱のキッカケになる、というお兄さんですが、これ要するにホラー映画に出てくるいらんことしィのダムブロンドだよね。作者が女性だからお兄さんになってるってワケでもないだろうが、いちいちイラっとする行動言動もそう思うとちょっと気が緩…みはしないか。ともあれ、話が進むにつれて加速度的にアカン雰囲気になってゆく彼のキャラクタは、もし演技するとしたらなかなかオイシイ役どころじゃないかなって気がした。まあ気のせいかもしれないが、実際一番印象に残ってんのはアレンさんなんだよな。エエんかなそれで。まあいいや。