笑酔亭梅寿謎解噺

田中啓文「笑酔亭梅寿謎解噺」3巻までを読了。「ハナシがちがう!」シリーズちうた方が適切なような気がするがまあいい。上方落語界にムリクリ放り込まれた元ヤンキーにして現パツキンモヒカン落語家が主人公のお話で、謎解噺というとおり一応はミステリなんだけど、実際ミステリっぽさは元々薄い上に巻が進むに連れて更に薄くなり、3巻辺りだと謎らしい謎もないエピソードもそこそこあったりする。謎解があったらあったで大概はダジャレや聞き間違い程度のネタであり、これはまあ田中啓文らしい気もする…ってまあ、ワシ作が読んだ作者の作品ってこれ以外に「銀河帝国の興亡も筆の誤り」しかないので、認識に偏りがあるかもしれないがまあいい。

主人公の梅駆さん、チンピラっぽいモヒカン頭という外見にして妙に気が優しく、そのくせ隠れた落語の素養があったりして…という破天荒なキャラなんだけど、周囲の魑魅魍魎どもの方が更にキャラ立ちしてんので存在感で割と押し負けたりしてんのよね。師匠にして表題の人である梅寿は、らくだが十八番で以前倒れてからちょっとろれつが怪しいがそれでも第一線の笑いの王様というとこ見りゃ明らかに松鶴なんだけど、豪快というよりはムチャクチャな性格と行動の方は松鶴本人というよりも「破滅型落語家」の共通イメージを乗っけてあるって感じだろうね。ま、梅寿師匠は師匠なりに弟子としての梅駆を大きく買ってはいるんだけれども。

あとはちょぼちょぼ元ネタを探すのもよし。ちうても細かいところは多分一杯見逃してるだろうけども、例えば西の大御所「桂麦昼」(ばくちゅう、と読む)とか東の首領「楓家小よん」とか横紙破りのはぐれ親分「眼鏡家乱視」とか、この辺はそのまんまであって妙にオカしい。王佐田春男ってのが出てきたのには思わず吹いたが、ご本人が解説書いてたのにはもっと吹いた。まあそらおいしいわなあ。てことで、ワシが元から興味のある分野の噺…いや話であるせいもあって、しょーもないネタの連続ながらなかなか楽しめたです。