ひとりっ子

グレッグ・イーガン「ひとりっ子」読了。割と年代順に並べてある短編集であり、時代が進むにつれてどんどんハナシが長くなってんのが(そういう風に編集した本であるにしても)おもしろかった。あー、書くことに慣れてきたはんねやなー、みたいな。

傾向としてはインプラントによって意識を改変する、というタイプの話が複数あって、イーガンの趣味嗜好の方向性が垣間見える感じ。「意識の変化を意識する」という入れ子構造の面白さは確かに、リクツから先に立ってるようなイーガンらしいと思ったりもする。その中にあって「オラクル」はちょっと毛色が違ってて、戦後すぐ辺りの時代設定でC・S・ルイス(みたいな人)とチューリング(っぽい人)が神学/科学論争をやるという。んでもってチューリングの方には未来世界からのチートパワーがあるので最強であるのね。一応ルイスもラスト、話のキモであるドラマチックなネタで作品を支えてんだけど、ワシの皮相な目から見るとなんかこう…ルイっさんの描かれ方がちとアンフェアなんと違うかなーとか思ったりした。いや、ワシは明らかにチューリング側をおもろがる人間なんですけどね。だからこそ余計にね。うん。

まあそん中で、一番ストレートにおもろかったのは「ルミナス」だわなあ。上記の「意識の物理的な改革」もイーガンだけど、このルミナスの身も蓋も無い「ロジック=世界」というネタもイーガンだ。…世の中は基本(ゲーデルさんが笑顔で「許すよ」と言うて下さる範囲内で)破綻のない物理世界だが、実は一部の凄くめんどくさい計算式においては、例えば「2*3」が「3+3」と等しくならなかったりするのである。まだ誰も…人間も宇宙人も、あるいはビッグバンからこっち全ての物理世界の挙動も、その計算式に該当するものをたまたま表現していないから、この宇宙は存続している。しかし今、主人公たちはその計算式に気付いてしまった。もしこれを厳密に証明してしまったら…。そしてそれを利用すべく暗躍を始める巨大企業…。うへえ、これは頭のいいバカの考えることだ! すげえ好き! こっちの世界のノーマル論理とあっちの世界のアブノーマル論理がフラクタルな境界線で隣り合ってるマップとか、三次元マンデルブロっぽい図形がゴワゴワと蠢動するというCG絵面が目に浮かびますな。

うん、こういうカシコな人のバカ話は見てておもしろいやね。ワシ程度の頭でついていける範囲内で、ではあるがな!