セカイ系お客様

●ウチの職場ビルはオフィスと商業施設が同居しており、また職場そのものも一応一般客の来訪が無いでもないような状況なので、割といろんな人が寄ってきたりする。こないだはラフなカッコの四十代くらいのおっさんが来て経済や投資がどうこう言うから、てっきり上の貸し会議室でよくやってる一般向け投資セミナーか何かの客が迷い込んだかなと思ったがどうもそうではない。「あなたたちに必ず儲かる銘柄を教えましょう」「私の言葉にウソはありません」「私が朝寝床で思いつく銘柄はかならず上がります」「日本と世界の経済は私の朝のお告げによって動いているのです」「本日はぜひこの銘柄を買いなさい」「これは私の博愛精神による慈悲であります」云々。そういうお人であった。適度に聞き流して申し訳ないが間に合っております、と丁寧にお引取り願う。大儲けが確実ならばなんでそんな風采の上がらないカッコなのかしらとか、そういうことを言うてはいけない。

件の人が去ってったあと、後輩の人が「なんであんなムチャクチャを信じちゃうんですかね、自分で判らないのかな」と感想を述べる。確かにそうだけど、でもワシらとあの方との差異ってのもそれほど大きくないんじゃないかなとも思う。大体においてある事柄のシッカリした因果を明らかにするってのは難しいことであり、普段ワシらはその確かさにはあまり重きを置いていないフシがある。あの商品を喰ったら体調がよくなった、あの習慣を止めたら逆に悪くなった、などなど。膨大な因果関係の網の中で、自分で判りやすい恣意的なスレッドを数本だけ見てそれを明白な正解だと思い込む。面倒なことにそれで大きな破綻は起こらなかったりするのが大概だ。朝思いついた銘柄が世界を支配するという因果の糸。多分、それを旗印に掲げても人間ってのは問題なく生きていけるのだろう。

だからワシ、後輩の人にいやあ人間誰しもああいうとこあるもんだよと返答する。「そっすかねえ、俺は違うと思いますけどね」うんまあ、全然同じってワケじゃないだろうけどね。…何となく、あっちとこっちで幸せなのはどっち、とかそういうことをぼんやり考えるが、よう判らんかったことである。