インセプション

●録画しといたインセプション、観了。相手の夢の中に入ってって記憶を盗んだり植えつけたりするお話。ワシは事前にある程度情報を得てたから楽しく視聴したが、確かにこれ何の予備知識も無く見たら話についてくのはホネかもしれない。ハリウッド大バジェット映画としては結構面倒な構造の作品だろうねえ。それを勘案してか、今回の地上波放送では夢のシーンで左上に「誰々の夢第一層」云々と現在のレイヤが表示されてたり、映画半ばでインターミッションとってこれまでのあらすじを説明したり、とアレコレ気を使っていた印象。ちょいと過保護にも思えるが、テレビ人の判断としてはまァ…判らんでもないか。

上で複雑だと書いたけど、それでも極力「ハリウッドアクション映画」としてのフォーマットと価値を崩さないように全方向に配慮して作ってあるのは流石。企業スパイモノの側面や「複数の個性的な専門家が協働して困難に当たる」という七人の侍的要素もあって、なかなかワシ好み。チーム内で一番足を引っ張ってんのがビリングトップのお二人、ディカプーさんとケンさんだってのが皮肉っつーかなんつーか。

「複雑さ」を極端にいたる前に寸止めしている雰囲気なのは、エンタテイメントの制作側として良い判断だと思う。これがディックならやたらと夢の階層をいたりきたりして「これは現実か否か」という要素をもっと前面に出すだろうし、押井なら「そもそも俺は本当に存在しているのか?」とかヤっちゃいそうだし。いやワシそんなんも大好きですけど、この映画でやんなかったのは正解だな、と。

入れ子構造の夢の中を深部に向かえば向かうほど時間の進みが遅くなる、というルールが面白い。このギミックによって物語に時間的な距離感と大きさを盛り込むことができると同時に、夢から覚めたらそんな経験も雲散霧消してしまう…雨に濡れる…涙のように(ルトガーさん)、という「邯鄲の夢」的な情感も出せる。精神の深淵(英語ではリンボ、辺獄つってたか)で流されるままにしわくちゃジジイになっちゃったケンさんのシーンは…うん、ちょっとメイクが面白くて微笑んじゃったけどさ。あれ、CGとか使ってもっとゲッソリと骨皮筋衛門とかにしても良かったんじゃないだろうか。いいけど。

しかし面白いと同時に、この複雑な構造を判りやすく、エンタテイメントとして語り上げようとしている「必死さ」も垣間見えたりした。ストーリィ的にもクリフハンガーだが、語ってる制作側も一所懸命な感じがするのよね。どっかちょっとでも語りの気を緩めたら、途端にダルくなったり破綻したりしそうな雰囲気。まあ、別の言い方するならばそれだけ「緊張感のある作品」と言えんこともないんだけど。うん、十二分に楽しかったですよ。見てて割と疲れる作品ではあったけど。

…あのホテルでの大立ち回り、アレはどうやって撮影したんだろうなあ。傾いて重力方向が変わったりするギミックは「2001年」や「ザ・フライ」みたく回転するドラム内にセット組むとかすればいいだろうが、あの完全な無重力描写が謎。全部CGとも思えないし、よほど上手いことシカケして吊ってんのかな。…まさかあれ、巨大輸送機の内部にセット作って自由落下させた、とかじゃないよね?