キック・アス

●今年もレンタルビデオ屋の更新日が来たので何か一本借りる。なんかここ数年は更新日に無料レンタルしてもらう以外に使用してないような気がするが、まあそれはそれでよし。


●てことで「キック・アス」観了。そこらへんのダメなガキが何故か「俺はヒーローになる!」ちうて自警団気取り、何の能力も無いので当然普通にボコられるがようつべで大人気。しかしその人気により、(ある意味)マジモンのヒーローと(こっちは普通に)マジモンの悪漢のマジモン抗争に巻き込まれてさあ大変…というお話。


うん、こりゃ確かに評判どおり面白い。ハリウッドの大バジェット(でしょ?一応は)ヒーローものとしては結構な変化球映画。分類としてはコメディであり、実際一歩引いたスタンスでのギャグセンス相当に高い。主人公デイヴさんのズ○ネタの「英語の先生」のキャラがスゲくて、ちちでかいけどオバハンですよ、でもちちでかいっちう、こっちの顔が真っ赤になるくらいのナイス配役に大笑いした。うん、高校の頃ってそんなもんである。あと自室でのマヌケなタクシードライバーシーン、その台詞や状況も然りながら、いちいち鏡に貼ってあるリボンのシールが絶妙に頭んとこにくるのがおなかいたかった。


んで、そういうコメディにしてはヴァイオレンス描写が直接/間接問わず突出してんのな。彼のヒーロー活動の初日は案の定失敗するのだが、その失敗ってのが「暴漢にナイフで腹刺されて車にはねられる」という即物的なものであって見てて痛い。痛いといえば後半にTV生中継による拷問シーンが出てくるんだけど、これもまたメリケンサックで殴られバットで向こう脛折られ、とキッツい絵。拳銃乱射シーンとかよりこういうのの方が痛いよね。


これらの過剰な…いや、過剰というより妙にリアルで生々しい暴力性が、コメディな描写との天秤で全体としてフシギな味わいになっている。とにかく乾いてんのよね手触りが。ウェットで感情的なものが乗ってこない。


んでこれ、主役であるデイヴ/キックアスさんの「ヒーローとしてのお話」がすげえ薄いのね。一応「力無きものには責任も無いのか」というスパイディの裏返しなテーマが一貫してあるにはあるし、物語の構造として「軽い気持ちでのキッカケ→上手くいって調子乗り→手痛い失敗→反省と気付き→新たなる活躍」っちうちゃんとした流れもあるんだけど、描かれている描写の重さは完全に第三勢力であるバットマンもどきの親子ヒーローさんに負けている。


覚悟バリッバリに決まっちゃった日常、修羅の道を笑いながら歩く人生、人を屠る事に関してはムチャクチャ頼れるプロフェッショナル性、そして涙の代わりに血を流す復讐譚。正直この父娘ヒーローとその敵のマフィアの関係性だけで十二分に映画作れるだけの「実」がある。その差がよく出てたのがボロボロになったキックアスとヒットガール(娘ヒーロー)がほうほうの体で隠れ家に逃げ戻り、再戦を期している辺り。勇ましい音楽と悲壮なシチュエーションの中、ヒットガールはジャキンガチャンと武装を整えている一方、キックアスさんはそのカットバックで顔の血を拭いて鏡見てんのっすね。ヒーローものの主役がやるこっちゃない。


ほな主役要らんのかいな、っちうと全くそうではない。もしデイヴさんなかりせば、上記の手触りを含めたこの作品の味は出てこなかっただろうな。ちょっとボンクラでヘタレな主人公の立ち位置が、対比としても一般性の提供場所としても良い軸になっている。…そうねえ、ヒーローものとしての主役というよりは、傍観者/狂言回しとしての主役、という方がシックリ来るだろうか。巻き込まれちゃってるけどね。


えーまあ、そんな割とキッチリした感想もともかく、やっぱヒットガールちゃんだよな。微妙にダサいヒーローコス姿でごりごりと人を斬り、撃ち、殺してゆくしょうがくせいじょし。こ、これはホンモノじゃぜ? 復讐シーンのパツキンツインテのチェックミニスカ姿はもはや卑怯やよね。この時の音楽が口笛とジョウハープのマカロニウェスタンBGMってのがバカかつ本気でいいなあ。武器満載のキャスターつきバッグが棺桶ってことか?


吹き替えは全般的に手堅し。やっぱし親子ヒーローの方に行っちゃうのですが、ニコラスケイジお父んの内田直哉はシヴくていい。んで娘さんが沢城みゆき。お子様キャラの声としては最近珍しい…ってまあ、ダンタリアンちゃんを今やってるんですがね。ドス利かせとかわいったらしさ、両方の演技力が必要だからのキャスティングだろうな。


てことで、うん、楽しかった。こういう話は日本人には作れないや。あと続編も作れそうなシコミで終わってるけど、まあ無きゃ無くてもかまわんよね。もし作るとなればヒットガールちゃんも成長しちゃってるだろうしなあ。いや、それはそれでエエけどね?