老人と宇宙

●ジョン・スコルジー「老人と宇宙」読了。宇宙は「そら」と読み、まあ老人と海のモジリですな。ネット連載してたSF小説が人気になって出版された、っちう経緯を持つ作品のようで。それかあらぬか、各章ごとにちゃんと面白いシーンや要素を律儀に盛り込んでてダレ場らしいダレ場が無い。実際かなり短時間で読んでしまいました。うーん、やるな。


お話としては表題どおり、爺さんが宇宙に行く話。しかし観光や調査ではなく大戦争の傭兵として、である。著者の謝辞のラストにハインラインが入ってるので判るとおり、つまりは老人版宇宙の戦士ってワケ。老い先短い老人だけをスカウトし、超絶技術でスーパー戦士に生まれ変わらせる謎の組織・コロニー連合と、行く先々で出会い終わりなき戦いを繰り広げるさまざまなエイリアン種族。実にベタでストレートな話を、もうがっぷり四つで描写するっちうタイプの作品ですな。


設定がベタだけに、盛り込まれたガジェットやアイデアやネタの濃度の高さがよく目立つ。手を変え品を変えの敵(あるいは味方)エイリアンたちのバラエティがとても良い趣向変化になってて飽きさせんなあ。ネタとして気に入ったのは、主人公が老いた体から超絶的戦士ボディに変化した(ま、変化というかなんちうかだが、ともかく)時にコロニー防衛軍からもらうパンフの描写。「あー、新製品のパンフってこんなんだよなあ!」って感じで可笑しくて。強化皮膚や脳内補助デバイスや高性能血液や、それら全てにいちいち商品名と「TM」が付いてるのがツボですわ。「もう接続切れは起こりません! ブレインパルTM・コンピュータを紛失することはけっしてありません」とかね。


あとこの手の作品に欠かせない超光速推進ネタね。この作品においては「スキップ・ドライヴ」というテクノロジーであり、何かっちいますとこれ、加速すんじゃなくて「別の並行宇宙のしかるべき座標に出てくる」という代物。無論並行宇宙だし、元居た宇宙とは微妙に違っている可能性もあるが、まあ基本的には無視できる範囲内なのでいいや! 元の宇宙にもどっか別の並行宇宙から代わりのワシらが到着してるだろうしね! …うーんええなこのバカネタ。


物語半ばで主人公がブチ当たる「俺はもう人間らしい心を失ってしまったんじゃないか」というアリガチなネタをめぐる話も面白かった。周囲や上官が「ま、誰にも起こる心持だから気にすんな」と麻疹扱いし、実際主人公は乗り越えるのだけれど、そのキッカケが「人間の工場労働者の残虐なスト行為」なのよね。あーそっか何や、人間ってもともとこういう生き物なんじゃん。見方によってはワシらの敵のエイリアンの方がよほどジェントルだわい…とまあ、そんなんでエエんかいな、というね。


てことで、なかなか上質のエンタテイメントSFじゃったと思いますよ。ほかの著作があったらまた、買ってみたいね。