勝つために戦え!

●ここ数年は本を買うといえばほぼ古本屋さんであり、雑誌等を除いて新刊書なんてとんとご無沙汰だったんだけど、通勤途中の時間潰しに立ち読みしてたら「あ…いかん、これは立ち読みだけじゃ対処できない」という事態に陥っちゃったのでエイヤで買いました。本。わあ久々。だってしょっがねーじゃん面白かったんだから。てことで、押井守「勝つために戦え! 監督編」を購入でありますよ。


これがまあ何というか、もー好き勝手にしゃべり散らかしててなんかもう、かなり他人に勧めづらい本ではありますわ。ノリとしてはそうねえ、大学の映画研究会のうざってェ先輩がぐだぐだしゃべってるのを拝聴してるような。いや勿論第一線でガンガンやってきたバックボーンあっての重みある発言だらけなんだけど、ノリはそんな感じっすわ。ノリはね。


通底してんのは「映画監督にとっての勝利条件って何よ」ってことなんですが、そのメインテーマも然りながらお題の各監督への実も蓋もない評価や言及がバカに面白い。相変わらず宮崎の爺さんについてはボロカスですしね! 老化したの衰えたの敗残兵だの言いたい放題だ。もうこの二人は死ぬまで憎まれ口の叩きあいしてたらエエと思う。あと鈴木敏夫も入れて…って、鈴木のおやじとは巻末鼎談してんですけどね。いやあ、こういうお互い言いたい放題な関係性ってなかなかねェよな。怖いおっさんらである。


以下気になったとこを適当に。


■CGと手書き絵のマッチングについてかなり丁寧に語ってて、例えばそれはスカイクロラのメイキングでも手間隙かけてすり合わせ作業してたのが印象的だったりしたのだけれど、それで出来上がった絵面がアレですもんねえ。トゥーンシェイドとかそういう方向にはちっとも行かないのが面白い。確かにBGと比較すればマッチしてるのだよな、あのCG航空機群も。…以前も書いたけど、そういう意味であの映画において「車は手書き」ってのがまた、何やら興味深かったり。航空機は背景に、車は人物にマッチングさせたかった…ってことかしらね。


デヴィッド・リンチについて「映画に祝福されてるっていうより、呪われてるって感じ」と評し、すかさずサタンヘルムとかもろはのつるぎみたいですよ? と言っちゃうのが押井らしいバカチンさですなー。非常に強力だが自分周囲含めてどんどんダウナーになっちゃう、というね。三池監督はしあわせのぼうし(映画作れば作るだけMP回復)、自分自身はきせきのつるぎがエエなあ…って、こんな喩えがすぐ出てくる還暦近い映画監督ってダメだと思う。よしもっとダメであれ。


■確かに映画は芸術かもしれんが、でも美術館に入れていいような芸術じゃねェですよ、という主義についての言葉。「駄菓子はどこまで行っても駄菓子だし、ビー玉はどこまで行ってもビー玉なんだよ。水中に入れれば宝石よりきれいに見えるかもしれないけど」…パトロンから出資してもらっちゃダメであり、必ず社会的なカネ…お客さんからのカネ、で成立させんならんと。主義の妥当性はともかく(ワタシは芸術的映画ってヤなので個人的に同意するのですが、それもともかく)、ここだけ異様に言葉遣いが詩的で何かおもろかった。ま、そんだけ。


樋口真嗣については仲良くて好きなだけにチビシい言い方してんだけど、あれこれいろいろ言った末の結論が「ローレライの潜水艦が伊−四〇〇じゃないのがダメだ!」なのがまた…。百歩譲ってあの対空砲火潜水艦を擁護するにしても、あんな大口径の艦載砲じゃなくて二〇粍の四連装であるべきなのに判ってない、ああ判ってないなァあの百貫バカは! ですってよ。うーん奥が深い。ああ深いとも。