啓示空間

アレステア・レナルズ「啓示空間」読了。こないだから何となく似た傾向の作品を読んでるような気がするが、別に選ってそうしてるワケでもないんですよね。カエアンもニュートンズも啓示も買って積読化した時期はばらばらであり、たまたま手にとって読み始めたのがそーゆー結果になった、っちうに過ぎないのではあります。


てことで、これまた英国的ガジェット満載的シニカル的SF作品、である。当然ながら各々傾向の違いは歴然とあるが、共通して「陳腐さからは程遠い要素てんこもり」で共通している。その中でもこの作品はですねえ、本の分厚さにおいて一線を画しておりましてな。なんせ全部で千ページ超。京極堂小説に近いたたずまいの本ですよ。


そんなけの分量使って大河ドラマを紡ぐワケでもなく、描かれるは(確かにアホほど壮大であり、また時間的には数十年のスパンはあるが)矢継ぎ早に繰り出される驚愕事件の積層。そしてその世界を眺める視点は主に三つ、謎の古代遺跡とその探索に生涯をかけるヘンコ考古学者にして政治家の男、宇宙をまたにかけてゴリ押し利益を上げる機械キメラな船乗り姐御、腕は立てども哀れ夫と泣き別れな職業・殺し屋女、だ。それに絡む道具立ては遥か古代の異星遺跡、宇宙に点在する致死的にして漆黒の謎空間、町ひとつほどの大きさがあるおかげでどこに何があるのかちいとも判らん超巨大宇宙船(でも活動中の乗組員は数人のみ)、などなどなどなど。


とにかく各々の要素の振り幅・バラエティが広くて、全体併せた時の印象に定番感のかけらも無いのは大したものだ。一つ々々のガジェットはアリネタも多いんだけど、その語り口や使い方がすごくシャープでセンスがエエのね。そこら辺、読んでて実に気持ちよろしい。


しかしまあ結構なハードSFっぷりではある。上で「ガジェット満載」と書いたが、そのガジェット群にしてからが、ロジックの裏づけのありそう具合とムチャなスケール具合のバランスが半端ではない。何よりラストステージのアイデアといったらもう。堺三保の解説に「ありがちな奇想をハードSF手法で語っている」とあるが、…そーかー…コレって「ありがち」だったのかあ。確かにホーガンやイーガンにも「似たもの」は出てくるが、それにしてもそれにしても。圧倒的な存在感だけではなく、その舞台の成立過程まで見てきたように語って騙ってる部分は読んでて「おおおお!」てな感じでしたよ。スゲかったわ。


ちょっとおもろいのはキャラの性格の傾向。上記登場人物のうち半分メカな船乗り姐さん・ボリョーワさんのグループは「ウルトラ属」と言われ、その他の登場人物たちからは冷血冷酷の人非人だと思われている。確かにかなり思い切った性格ではあるのだが、ワタシの視点から見たら義眼考古学者シルベステさんも凄腕キラーのクーリさんも、ドライさや非情さではあんまし負けてないように見えますのよな。二者間にどんなけ敵意があろうが(いろんな意味での)利益があるならば普通に理屈は通るし、また取引や交渉にも障害は少ない。無論機会あらば相手の裏をかくにためらいも無い。…こういうキャラ造形ばっかのキャスティングでポポポンとテンポ良く語る作品、ってのはあんま日本には無いよね。ピカレスクの質が独特ではあるよな。


その中にあって異彩を放ってるのがウルトラ属副船長のサジャキさん。上記冷酷ドライ計算高さにおいて最右翼キャラながら、この人日系設定なのよ。それも寸止めなんてしねェよ? 遠未来の異星世界において、情報収集のスパイ活動と称して深編笠に尺八装備の虚無僧姿で闊歩するのだ。ギャグやコメディじゃない虚無僧サイボーグ。強いよ? めっさ強くて底知れぬ陰謀キャラなのよ? でも一人称は「拙僧」よ? …原文はどういうことになってたんだろ。ちょっと読んでみたいわな。


…この本、冒頭にキャライラストと乗船インフィニティ号の図面が載っている。これ個人的にちょっと懐かしい感じ。いやこういう体裁ってのはパターンとして今もよくあるんだろうけど、ワタシはアレだ、キャプテンフューチャー思い出したりしたのよね。水野良太郎のキャラ絵とコメット号の断面図。こういうのってちょっとニヤけてきますな。エエことです。