ニュートンズ・ウェイク

ケン・マクラウドニュートンズ・ウェイク」読了。ええとニュートンの覚醒? 何となくハードSFっぽいタイトルだなあ、と思ったら何のことァない、フィネガンズ・ウェイク本歌取りしたタイトルでありましてワシのバカちんである。てことで本編はというと、ヘンテコガジェット満載で視点的ヒネリがものすげくて素直なキャラが一人も居ない、っちういかにも英国SFゥな感じの作品でした。意表をつく展開と人を喰ったギャグの濃度が高いところは、こないだ読んだカエアンなどのワイドスクリーン・バロックの要素をも少し汲んでいるのかもしれない。


が、この作品はかなりドライで皮肉な味わいが強いんですな。一応の主人公たる「実戦考古学者」のルシンダ姐さんにしてからが、テメエの商売とカーライル家の繁栄のためならば他の人や惑星などは割とどうなっても構わないタイプ。ま、それだけ他勢力との抗争で揉まれてきたってことではあるんですがね。…ちうかまず、実戦考古学者という肩書きがエエよな。実践違うよ、「実戦」考古学。要するにレイダース(財宝荒し)なんだけど、それを商売の根幹に据えて昇華している描写も楽しい。うん。


あと解説にあるとおり、この作品は非常に政治的な要素が強いのだ。コミュニストだの資本主義だの、そこら辺の主義主張がメインのスジに躍り出てきて、そして(他の諸要素と同じく)コテンコテンに脱構築/バカチンにされる。劇中の劇作家の作品である「登場人物が全員20世紀ソ連のエライさんである古典劇」がサイコーにバカでねえ。台詞回しがとっても古典なのに、語られる内容はソ連の兵器輸出や社会主義の崩壊の話。頼れる英雄ブレジネフに裏切りの男ゴルバチョフ。エエなあ。…政治的なアレコレをギャグにする態度っちゃパイソンズを思い出しますがね。これも英国的ギャグ要素なのだろうかな。


意図的であろう、かなり錯綜した構造のお話であって精読しようとすると大変なのだけど、まァその、グイグイ引っ張られるムリヤリな雰囲気だけでもかなり楽しめるので楽しかったです。そういう強引な展開の先に、あの妙にほのぼのとした(いや、あんましてないけどそういう雰囲気の)オチだ。特にルシンダ姐さん、紆余曲折を経たのちのあの「気づき」(とその時の仕種)が妙にかわいくてエエやんかいさ。わはは。


てことで、ふむ。ちょいと他の作品も読んでみたくなった。