反逆者の月

●デイヴィッド・ウェーバー「反逆者の月」読了。シリーズ第一巻。これ、買ってきてしばらく経ってやっと気づいたんだけど、「オナー・ハリントン」シリーズを書いた人だったのな。なるへそ…それでこのミリタリ偏重具合は説明がついたわい。てことで「月は巨大戦艦だった!」という、最近もどっかのアニメで見たようなバカ設定引っ提げての戦争SFである。無論コッチの方が先行作品なんですけどね。ええ。


真正面海戦(宙戦)SFなハリントンさんのシリーズと比すると、こちらはちょっとヒネった設定のSFである。ま、ちょっとだけね。軍人出身のNASAパイロットコリンさんは、ひょんなことから月に偽装していた巨大戦艦の艦長となり、人類の歴史のはるか以前より繰り広げられてきた星間戦争(の小さな叛乱)にまきこまれるのであった…というお話。前述のとおりかなりミリタリ成分偏重の作品で、SF的立場からするとかなりアッサリした味付けではあるし、また「アレ?」という描写もちょいちょいあったりする(西暦2030年近辺でまだ月内部の構造が皆目判ってないとかね)。


でもま、そういう作品じゃありませんから! ってとこなんだろうな。敵の宇宙帝国人たちが滅茶苦茶ワルワルっぽい単純な人だったり、戦艦のメインコンピュータ「ダハク」さんが割と簡単に自我を獲得したり、そういう割り切った描写もそういう思想の発露なんだろう。ある意味一番スゲエキャラなのは主人公のコリンさんで、ダハクを手伝ってやろうと決意を固めるに当たって「どんな超越的な概念があろうが、米合衆国との誓いを蔑ろにする制約には手を染められねえ!」と啖呵を切ったりするのである。星間戦争よりもコメ国。わはは、とてもパトリオットです。なんせ月の裏で地球外存在と初コンタクトした際、相手がどんなヤツかも判らないまま、英語で警告してからすぐミサイルブチ込むようなお人ですからなあ。どんなNASA関係者だ、ってそういう主人公。…ま、「万一に備えてミサイル積んでた」という月探査戦ってェのも大概だけどね。


ミリタリ的作品とは言い条、その戦闘描写は(人的損害もバカでかいのではあるが)案外と陰惨な印象ではない。どちらかと言うと、各々の陣営がどう考えどう動くか…という戦略と戦術の面白さに主眼を置いた作品なのだろう。実を言うとその戦術描写もまだ、この巻ではまだまだ甘いような気はするんだけどね。次巻以降の描写に期待してみよう…買うことができたら、ですが。


ちょっとオモロイ要素として、登場人物の多くが各国神話の神の名を持つのね。そいつらが過去文明に介入した結果として今も神の名として現在まで残ってる…と言いたいんだろうが、それにしては皆さん神々とまァったく同じ名前なのは、言語の変化率を考えるにちょっとヘンだとは思うんですがそれは言わぬがフラワーか。敵陣営をシュメール/メソポタミア神話キャラ(アヌが総大将、側近がイナンナ、部下にニンフルサグ…とかね)にしたのは、これで文句言う国の人が少ないと踏んでのことだろうか。あと、冒頭で死んじゃったドゥルアガさんってのはドルアーガかしら。いやあ、あのゲームでドルアーガだけ出自がよう判らんかったんだよね。この作品を見るにちゃんとシュメール由来の人だったのかなあ。


てことで、SF者としてはちょいと色んな意味で可笑しかったりはしたが、軽く楽しむに十分な作品だったのではないかな。うん。続巻見かけたら買ってみよ。あーあと、ラストで主人公側に仲間入りする各国軍隊の中に「日本陸軍仙台師団」というステキ集団が居てたのでどうか活躍してくれますように。ゼヒ。