DNAとの対話

●ロバート・ポラック「DNAとの対話」読了。えーまあタイトル通り、分子生物学者の立場から遺伝子研究やその応用についておまとめしたお話ですな。原著のコピーライト見ると1994となってるからもう十年以上前の本で、日進月歩のこの業界としてはもうちょっと古臭い所もあるのではあるんでしょうけどね。ま、それはそれで。


内容としてはかなり一般大衆を意識したツクリになってて、様々な喩えや図解で解り易く、されど本職さんらしく詳細に、DNAとその組替え技術について詳述してある。特に「分子ワープロ」の辺りの描写はおもろいな。…「カット」キーを押すと制限酵素が特定のパリンドローム(回文)配列の塩基配列んとこでDNAを切り離し、「ペースト」キー押したらDNAリガーゼが切断部分を閉じて…とまあ、やたら具体的。これはある程度仮想的なマシンなのだけど、多分今は似たようなモンがあるのと違うかな。あったらエエな。


あと、流石話題が話題だけあって、技術的問題だけじゃなくて社会的な影響についていろいろ述べてはりまして、今やそこらへんはほぼオンタイムの問題になってますしな。たぶんどーやっても今後優生学的な考えをもった人は出てくるやろし、また金づるとしてDNAを知的独占する傾向も無くならんやろなあ、とちょいと悲観的な感想は判らんでもない。実際そうなってるしなあ。


訳者は中村桂子と中村友子。桂子さんはこういうジャンルでは既に名跡ですが、友子さんってのはその娘さんなのね。んー、ちょっとまだ訳文に生硬さが感じられるような気がする、ってのはワタシの好みの問題だろうか。話題が結構ロジックメインなのでしょうがないっちゃそうなんだけど、でも「ので」の二重使用とかはアチシあんまりちょっと。好みの問題ですが。


あーあと、メンデルさんがしわしわ豆とつるつる豆で優勢/劣勢の遺伝についてアレコレした時の動機話が割と新知識だった。あれ、要するに劣勢のしわしわ豆の方が甘いのな。糖をでんぷん化する機能が阻害されると豆の中が糖っぽくなるが、でんぷんは水を吸いやすいので(原著ではタピオカプリンで説明してます)つるつるになり、糖はあんま水吸わんのでしわしわ豆は甘いと。…何となくつるつる豆の方がエエのかと思ってましたよ。どうでもいいか。