スカイ・クロラ

●てことで「スカイ・クロラ」感想。ええとですね、すげえ純粋な押井映画でした。唯一ここしばらくの作品と異なるのは「判りやすい」ってことくらい。あとはもう、犬がいて人形のような女がいてモニタ越しの現実があって繰り返される世界があって恐ろしく重い間合いがある、いつもの押井映画。メインヒロインの草薙水素さんは、名前もさりながらガラス玉のような目とかおかっぱ頭とかのおかげで、誂えたかのような押井キャラぶりになっててちとビビったりしました。これ、原作小説ではどうだったんだろうな。さて。


ある意味とても正しく子供であるキルドレさんたちによる、戦争と情愛のロンド話、でありますな。乾いたようで粘っこい、濃密な情感の描き方。上滑りする会話の紡ぎ方。ゆったりしてんのにやたら情報量の多い画面作り。全部合わさって、とにかく「識域下にモヤモヤしたものがどんどん溜まってゆくまま、表面的な話のみ進んでゆく」という、そんな不穏さがどんどん続く。…大丈夫、一応その堰き止め状況はクライマックスでインパクトを持って解消されるように出来てます。それが(普通の観客にとって)エエことかどうかは別にして、ですが。


うん、ワシはこれ好きだ。二十年前に見てたらドはまりしてたかもしれん。危うし危うし。


…事前の番組か何かで、人間の自然でムダな動きをなんとか出そうとしていろいろと動かしていますよ、と監督が言ってたんだけど、うーむ…そういう意味での「自然さ」は仕種としては残念ながら薄かったな。じゃそういう「いろいろ動かしてる」ってのは徒労だったかってェと全くそうではなくて、アニメ映画として画面がものすげえリッチになった、という結果には繋がっている。画面上の存在は全て意図したもので構成されるアニメの特質(弱点であり利点であり、多分押井は弱点だと思っている)なのだろうな。


そう、絵作りとしての魅力もすごく大きかった。特に空戦シーン、フェチい視線がたまりまへんねェ。こないだクロステルマン読んでて出てきた「滝のように流れ落ちる空薬莢」のシーンで割とゾクゾク。銀色のノースロップっぽい全翼巨人機といい、ちゃんとピッチが変化するペラといい、見ててホンマに気持ち良かった。カメラの振動によりギザギザになる機銃の曳光軌跡とか、虚構映像でちゃんと表現したのはオネアミスとこれくらいじゃないだろか。多分ワシが知らんだけでしょうけどね。


そしてその風景は、雨中のモノトーンも夜の街の黒い世界もあるけれど、基本的に青と白、そして草地の緑色だ。「繰り返される個人世界」というシチュエーションにおいて、この鮮やかで爽やかな色彩設計はなにやら彼岸世界のような、非現実な遊離感がある。それかあらぬか、多かれ少なかれどの作品の鑑賞後にも感じる「夢から覚めにくい」ような、現実に戻るまで時間がかかるようなあの感覚は、ワシにとってこの作品においてかなり顕著でした。


えーとあとは…ボーリングシーンの気の抜けたコントと気合の入ったバカ絵も割と好きでした。それとアレだ、主に航空機(あと建造物の一部)がCG処理されてるのはエエとして、車が全部手書きなのはちょっと意外だったな。車は「キャラ」ってことなのでしょうか。


声優陣はワシ的にあんま問題なし。主役二人の棒加減は結構効果的だったと思う。谷原章介さんは声優仕事上手すぎ(このキャラ、なんとなく「ライトサイドの辺見@人狼」っぽい感じがしましたです)。脇に結構芸達者大御所の声優さんを起用してんのがちょっとエかった。ベタだろうがわざとらしかろうが、彼らの演技力はそれだけで画面が持つのよねェ。


蛇足。見終わったのでいろいろ感想をあさってたのだけど、あのエンディングをして「救いがない」などと言うのはそれは違うやろがィ、とか思ってしまったよ。…あのシーン、あの表情、あの台詞で終わらせる。確かに「その後」のシナリオを書けばいくらでもダウナーなことになるかも知れんが、あそこで終わらせて後を描かないってことで「最高に力強いハッピーエンドになってるな」と思ったんだがなあワシ。あ、無論スタッフロールの後のシーンね。うん。