罦虻流昆虫記

●通勤電車で本を読まないと死んでしまいがちなワタシであるが、最近はあんまし古本屋に行く暇が無い。なのでたまに行けたら少し多めに古本購入することになる。その買った本の中に岩波のファーブル昆虫記があったのだけんど、これは結構お得感のある本でしてね。ま、岩波とか中公とかの本は大概お得なんですけどね。字が小さくて中身が無駄に詰まっててね。


改めて読んでみると結構進化論に対する反対論調が目立つのな。その意図だけでまるまる一章使ったりもしている。むかし読んだ時はそんな印象無かったので、子供向けの昆虫記からは省かれてたりすんでしょうね。こういうとここそ割と楽しいと思うんだけどな。いろんな意味で。


そんな感じで昆虫メイン以外の話も意外とあったりすんですが、第一巻にある「ヴァントゥ山に登るの巻」がよろしくてねえ。基本的にはみんなで山登って霧に迷って這う々々の体で山小屋たどり着いて…てな話だが、山登りの途中で弁当の袋を開く辺りの描写が細かすぎてステキ。虫観察の精密加減には定評のあるそのノリで弁当品目を執拗に並べ立てるワケだ。ちと長いが引用する。


「ここには腹にどっしりこたえるにんにく入りの羊の腿とパンの棒だ。そこには一まず空腹がしずまったとき奥歯を楽しませてくれる柔らかい鶏だ。それからその先の方、主賓の席にはやまはっかで風味をつけた「ろば胡椒」入りの小型チーズだ。その直ぐそばにはアルルのソーセージ、薔薇色のその肉には賽の目の脂と粒のままの胡椒で斑が入っている。こっちの隅には、まだ塩水がぽたぽた垂れている青オリーヴ、それから油で味をつけた黒オリーヴ、外にはカヴァイヨンのメロン、あるものは肉が白く、他のものは橙黄色をして誰の口にもそれぞれ合えるようになった奴だ。こいつは生酒をあおらせて足を軽くしてくれるアンチョヴィの壺だ。最後に白葡萄酒がこの馬槽の氷のような水に冷やされる。(…)一人はオリーヴを讃めながら、それを一つ一つナイフの先にさしている。二番目はアンチョヴィの壺に有頂天になって、オクラで黄色になった小魚を小さく切ってパンの上にのせている。三番目はソーセージを夢中にほめる。てのひらぐらいしかないろば胡椒入りのチーズを讃える段になると、誰しも異議なし。で、パイプと葉巻とに火がつけられる。皆はお腹を太陽に向けて草の上にねころがる」(山田吉彦林達夫訳)


…ねえ。虫ばっかの話の中にいきなりこの文章が出てくるんですよ。そら確かにワシが喰ったことねえ食品ばっかしではあるけどさ、なんかこう、列挙のされ方に有無を言わせぬ「旨そう」感が溢れてるやおまへんか。ろば胡椒(やまはっか)入りチーズってどんなんやねんて。喰いたいやんけ。あと、鶏肉料理を指して「空腹がしずまったとき奥歯を楽しませてくれる」もの、と捉えてんのもすげえよ。喰うに関することの追求具合は流石フランスではありますなあ。


てことで、これは本話というよりもメシ話カテゴリであったかもしれない。んー、ちょっとアルルのソーセージ買ってくる(売ってませんでした)。