図書室のドラゴン

というワケでマイクル・カンデル「図書室のドラゴン」を本棚から引っ張り出してくる。内容は全く覚えていなかったのだが、ちょっと読み出したら思い出した。そーそーこんな話でしたっけ。自由に本の世界に出入りできるマクガルヴィー・ランドにて主人公のシャーマンが様々な冒険をする話…と書けば王道ファンタジーの構造だけど、この作者の書く話だ、当然ながらマトモにファンタジーしてくれるハズがないのであるわな。


ドラゴンの跋扈するメインの逃避先(と言ってしまおう)・カスピドール世界にしても、いわゆる「ドラゴン退治」の華やかさなんて皆無。中古の自動車でガタピシ走ったり地域のお巡りさんに煙たがられたり無関係の市民を殺したり(それもかなりな大量殺戮)しながら、ダミー会社使ってピザに毒混ぜるような陰険なドラゴン相手に陰惨な戦いを続けるという陰鬱な冒険譚なのである。スカッとしねえことおびただしい。


そこらへんの所は「キャプテン・ジャック・ゾディアック」と共通の構造かつテイストではあるが、なんちいますか、「キャプテン〜」に比べるとなんかひねくれ方がジトッとしてんだよなあ。多分主人公が思春期少年だからだろうけど、彼の出会う悩みや感情がどうも生々しい。吃音にちんこ問題に家庭での不満に非モテコンプレックスに、と下らなくもあり重大切実でもあり、仮想世界でも現実世界でもコイツはこうなのか、てな感じなのよね。


「キャプテン〜」の方はその点やたらとドライで、ぽんすか人が死んで怒濤のごとく重大事が起きる割に、そこはかとない「どうでもよさ」が漂っていた。登場人物が全員エエ歳した大人だから余計に「なァにやってんだかこいつらは」てな可笑しみがあるんでしょうか。まあその分、「図書室〜」の方には終わり方のちょっとした叙情や読中のほろ苦い質感があるのだけれど。


…てことでどっちも割と楽しかったものの、個人的には「キャプテン〜」の方が余計にバカでワタシ好みだったかな、と。ええ。あそうだ、坂田靖子さんのイラストは相変わらず素晴らしいです。あんましひねくれてませんけど。