ミュンヘン

●何か知らんが、突発的にDVD借りて「ミュンヘン」を見ました。おもろかったっす。まあ言わずもがなの政治的・民族的な問題がコッテコテの題材ですが、そういう大域的な問題は個人間においてはどんどんとナンセンス化していく、という話でした。無意味を無限に積層した末の状況、それが世界ですよ。という。


語り口としては「ヘボネタギャグ好き」というスピさんのカラー、これが今回は妙にハマってましたね。暗殺目標の部屋を偵察しようとしたら、エロバカップルが出てきて標的ともども見惚れちゃったとか、止めを刺そうと銃を構えたら弾を落として大慌てとか、街角で暗殺の瞬間酔っ払いに絡まれて大失敗(実はCIA)とか。この辺のしょーもないギャグ状況が、その前後に隣接する「意味の無い死」をお互いに称揚しあってる感じで効果的。


…そう、いくつも出てくる「死」という状況。メシを喰うとか本を読むとか、そういった日常の営みを描くテンションとツライチで出てくる死。突然で地味で生々しい死。死が生々しいってのもヘンなんだけど…そうだな、もっとヘンな言い方すれば、生活の一部としての死、みたいな。主人公たちが暗殺仕事に慣れてゆくのと同じように、画面上の死はどんどんとドラマ性を失ってゆく。結晶化した純粋な徒労、に見えてくるんですよな。


例外は回想の中に出てくる死のみ。これは盛大な劇伴を付けてもらって、主人公の心中を表現してんですけどね。


とにかく、死にドラマ性やヒロイズムなんか乗っけてやらへんぞ、という執念みたいなのが見える。だから、その周囲にはハタから見れば実に間抜けな努力や奮闘がちりばめられる。深夜の大規模上陸暗殺作戦で、海からわらわらとやってきた工作員が、ウェットスーツ脱いで一斉にパンスト履きだしたのには大笑いしましたよ。女装大作戦。この後がまた大量殺戮なのよね。


というワケで、「マイノリティ・リポート」の時には何か違和感のあったしょーもないギャグたちが、今回はとても生きていたなあ、と思いました。


あとはもう、70年代な画面ね。いい雰囲気。冒頭に上役の小役人と主人公が海辺の道を歩くシーンがあるんだけど、ワシはここに映ってる人や物を見てるだけで幸せかも知れん。またこのシーンの色がいいんだ。海の青や壁の白が、古ぼけた絵葉書みたいにちょっと黄色味がかってんのよ。このカラーバランス好きやなあ。


でもピーカンで晴れてるイメージはこのシーンくらいで、あとはほぼ夜か雨かその両方。特に雨。雨上がりの路面や車を覆った水滴とか、そういう使い方が印象的でした。


どうでもいいこと。上の「ギャグ」に呼応するわけじゃないけど、主役のエリック・バナ、角度によってシャンプーハットのてつじに見えるんだよね。帽子かぶってるとなおさら。…検索してみると、この人の本職はコメディアンだそうで。あー、それでか! (何がやねん)